6 February 2018

Starcrawler(スタークローラー)|LA Weeklyインタビュー




【元ネタ英語記事】With Fake Blood and Frenetic Songs, Starcrawler Make Rock Feel Dangerous Again(2017年8月8日)

以下、当サイトによる翻訳


『偽物の血と激しい曲でロックはデンジャラスなものと再認識させるStarcrawler(スタークローラー)』

ロサンゼルス現代美術館の駐車場は日没となり、社会不適合者4人組(うちひとりはまだ高校卒業さえしていない)スタークローラーは「Pussy Tower」を発表 ― ライブ前、寿司レストラン<Sushi Joint>で、バンドのフロントパーソンArrow de Wilde(アロウ・デ・ワイルド 18才)は「フェラチオについて歌った曲です、って何でもいっか」と肩をすくめていた。ライブでは、その曲が始まるや否やデ・ワイルドは姿を消し、そしてまた現れたかと思うと観客目がけて血のりを吐きつけた。叫び出す者に笑い出す者。まるでパーティーの出し物である。

ライブ前半、デ・ワイルドは病院着で暴れ回り、精神病患者のビデオを研究し盗み取ったであろう半狂乱の表情を浮かべていた。ステージ上の彼女の人格は、アーカム・アサイラム(訳者注:「バットマン」に登場する精神病院)からの架空の脱走者か、Nick Cave(ニック・ケイヴ)やPJ Harvey(PJハーヴェイ)の卵のようである。病院着の下にはヒカリ物の男性用ブリーフを着用。最後には衣服を脱ぎ捨てコウモリの如く自分の腕を身体に巻きつける。おそらくかつて影響を受けた彼女のヒーローOzzy Osbourne(オジー・オズボーン)を真似てのことだろう。


(左から) Tim Franco(べース)、Henri Cash(ギター)、
Arrow de Wilde(ヴォーカル)、Austin Smith(ドラムス)


スタークローラーはここ1年程、よくグラムパンクのリバイバルバンドThe Lemon Twigs(ザ・レモン・ツイッグス)と対バンで、ロサンゼルス界隈でライブ活動を行ってきた。恐らく実際に彼らを観る前にその瑞々しいロックンロールミュージックを聴いたことがある人も多いことだろう。先月、デ・ワイルドはジョシュア・ツリーにあるナイトクラブ<Pappy and Harriet's>で観客に向け赤い血のりを吐いた。それにブチ切れた1人の女性がナイフを握りしめステージに向かってきたという。

「本物の血だと思うみたいなんです」デ・ワイルドは言う。え、ホンモノ?「作り方は秘密だけど、すんごいマズイんです」。

この4人組はロサンゼルス現代美術館のライブでクライマックスを迎え、バンドメンバーが楽器と格闘している中、デ・ワイルドはステージから飛び降り、殴り合いのケンカを煽りながらモッシュピットを急ぎ足で立ち去った。最後にドラマーAustin Smith(オースティン・スミス 22才)が観客にドラムスティックを投げ入れ、ギタリストHenri Cash(ヘンリー・キャッシュ 16才)が「本当にありがとう。皆んなくたばっちまえ!」とシメる。

ベーシストTim Franco(ティム・フランコ 20才)と共に、スタークローラーは今夜のオープニングアクトを務めたのであるが、対バンの他のバンドまで帰ってしまいかねない勢いである。

2階の楽屋ではデ・ワイルドが穏やかに腰掛け、「今何があったの?」と尋ねるのだった。全くもって良い質問である。



Starcrawler "Pussy Tower"


数時間前、礼儀正しいキャッシュはサウンドチェックでスタッフ全員に挨拶していた。最年少で気さくなキャラクターの彼は、キャメロン・クロウ監督の<あの頃ペニー・レインと>のやり口でGeorge Harrison(ジョージ・ハリスン)の役割を引き受けている。幼稚園の頃、Ramones(ラモーンズ)のアンソロジーを持っていき、他の園児達に見せていたらしいが「誰も分かってくれなかった」のだと彼は言う。

キャッシュは手指がギターを弾くに足る大きさになる頃からギターをプレイしてきた。今では自身のアイドルJack White(ジャック・ホワイト)に対抗出来るまでになった。アドレナリンで麻痺して指から血が出ているのに気付かないこともよくある。去年<The Echo>でのライブではステージで鼻を骨折したものの、翌日、写真撮影で変形した自分の顏を見るまで気付かなかったという。

最年長のスミスはベニスビーチのスケーターの風貌であるがハリウッド育ちだ。そしてリズム隊のパートナーであるフランコは物静かな男である。「最初ティムのことヤな奴かもって思ってたけど、最高にいい奴だった」とはキャッシュの評である。

万一スタークローラーが暴漢に襲われても、リズム隊が守ってくれるとデ・ワイルドは太鼓判を押す。「あの人達、銃を持ってるから」。彼女は言う。

キャッシュが興奮気味に語り出す。「ステージでKeith Richards(キース・リチャーズ)がMick Jagger(ミック・ジャガー)の背後から来た奴をギターでブン殴ってる動画見たことある?」。キャッシュが他のメンバーに目を向ける。「僕らもアレのリハーサルをしなきゃね」。

デ・ワイルドはエコパークのアートコミュニティー生まれで、ドラマーであるAaron Sperske(アーロン・スパースク)(Beachwood Sparks(ビーチウッド・スパークス)、Ariel Pink(アリエル・ピンク)等で活躍)と、写真家であるAutumn de Wilde(オータム・デ・ワイルド)の娘である。子供の頃にはElliott Smith(エリオット・スミス)が身近にいた。<Teen Vogue>や<Paper>でモデルを務め、16才にしてLena Dunham(レナ・ダナム)が監督したBleachers(ブリーチャーズ)のミュージックビデオにも出演を果たしている。


Bleachers "I Wanna Get Better" (2014年3月27日公開)
当時16才、ショートカットのアロウ・デ・ワイルド出演(1分17秒~)


スタークローラーはデ・ワイルドとスミスがフェイスブックを通じて知り合い、ジャムセッションを始めた2年前に端を発する。「何回か一緒に演って『コイツ悪くないじゃん』って思って」とスミスは説明する。デ・ワイルドはキャッシュのことを2人が通っていたイーストロサンゼルスのパフォーミングアートスクールで見つけた。彼がチューバのケースを運んでいるのを見かけ、ギターを弾くか尋ねたのだという。フランコはデ・ワイルドの知り合いの中で唯一ベースを弾く人物だった。フランコは彼にとって最初のリハーサルに汗を滴らせながらバイクで乗りつけた。彼は燃えていたのか?「だって遅刻してたから」。フランコは表情を変えることなく答えた。

スタークローラーは、彼らにとって初のライブを去年の春、サンセット通りのヴェニューで行った。デ・ワイルドが「クローゼット」と表現する小規模なハコである。中には40人がすし詰めとなり、外には会場に入りきれない数十人が窓越しに見つめていた。「僕らが1発目のバンドだったんだけど、終わったら皆んな帰っちゃってさ」。笑いながらスミスが回想する。「対バンの奴ら困ってたよね。僕にしてみれば『君達お友達いないの?』って感じだったけど」。

最近のバンドは「退屈」だとデ・ワイルドは考えているようだ。そして自分自身を過去の神話に重ねることを彼女は好んでやる。「ロックスターが楽屋でどうしてるのか、どんな感じなのかって考えたりしちゃいますよね。でも今のバンドって、普通の人より高いところにいる存在って感じではもうない。ミステリアスな存在じゃなくなってしまってるんです」。デ・ワイルドはそう語った。

そんな訳で、デ・ワイルドもキャッシュもステージにふさわしいファッションをしているのだ。病院着はデ・ワイルドが着用する2つのコスチュームのうちの1つだ。キャッシュは黒のブレザーに赤いシャツを選択。「The Beatles(ザ・ビートルズ)みたいにね。The BeatlesとRamonesにはユニフォームがあったよね。今じゃバンドは帽子にギターの、ただのヒップスターだけど」。キャッシュはそう語った。

ツイッターでのスタークローラーのプロフィールには「We will kill you(お前を殺す)」とある。「殺っちゃうぜ!」とキャッシュが言う。「ウチらのショーで観客はショックを受けてビビるんだけど、そんなことが未だに出来ちゃうなんて知らなかったんです」。デ・ワイルドが語る。「怒っちゃったりとかもするんだけど、それが気に入っています」。

あまりスタークローラーに興味がない傍観者の目に、バンドの姿は「病んでいる」と映るようだ。「僕ら、拒食症のヤク中だって思われてる。あと女性蔑視とか」。キャッシュは冷笑する。キャッシュは、この日バンドのインスタグラムに届いた嫌がらせメールを読み上げた。標的になるのは大抵デ・ワイルドである。そのメールは「あんな女がアピールするものなんて何もない。あんなのが有名人だなんてあり得ないし、まさに拒食症のプロモーションをしているようなもの」と結ばれていた。

キャッシュは憤慨した様子でデ・ワイルドの天ぷらが盛られた皿を指差す。「アロウは拒食症なんかじゃないよ。食ってるじゃん!身長6フィート2インチ(188センチ)もあるんだぜ。アロウのママが同じ年の時の写真を見れば同じことだよ」。

「気にしてない」のだとデ・ワイルドは言う。「拒食症だみたいなことはずっと言われてる。可哀想だとか思われたくない。この件について発言してもいいんだけど、それを公言したらもっと…」。彼女は答えるべき言葉を探しあぐねているようだった。

いわゆる「ボディ・ポジティブ(訳者注:世間のステレオタイプな女性の「美」の概念に振り回されることなく、ありのままの自分の身体を受け入れようとするムーブメント)」を自称する男女同権主義者からデ・ワイルドが攻撃されることにスタークローラーは失望していた。彼女のステージ上での役割を考えればなおさらである。「この素晴らしい女性のフロントパーソンって思われたくない。他のメンバーと同じタダのフロントパーソンでいたいんです」。デ・ワイルドはそう言った。

ステージ上での彼女の奇妙な動きは、The Runaways(ザ・ランナウェイズ)やOzzy Osbourne(オジー・オズボーン)に影響を受けたものである。彼女のオジーへの愛着は特に深いものがあるようだ。「<Blizzard of Ozz(ブリザード・オブ・オズ~血塗られた英雄伝説)>を聴いて、これまでの人生で聴いた中で一番最高のアルバムだって分かったんです。それからYouTubeの動画やインタビューを全部見て、オジーの本も読みました。オジーへの愛はロマンチックなものではないんです。Steven Tyler(スティーブン・タイラー)は今じゃうっとうしい存在になっちゃったけど、オジーは80年代に身に着けてたスパンデックスの服を着ようとしたりはしない。ただただシックなんです」。



2018年、ついに初来日を果たすStarcrawler(スタークローラー)


音楽の話となると、スタークローラーは本当に実直でちょっとプロっぽくさえある。ライブもまだ演ったことがないうちからファーストシングル「Ants」とそのB面「Used to Know」をレコーディング済みなのである。「Ants」は文字どおり毎年キャッシュ家を悩ませる夏恒例・蟻の大発生について歌った曲である。スピード感に溢れ、激しく、サクッと1曲演奏し終わるのと同様に即効完成させた曲でもある。「だってムカついてたから」とキャッシュは言う。

「Ants」はElton John(エルトン・ジョン)の手によって<Beats 1>のラジオでオンエアされたのだが、キャッシュによると、「面白いんだ。だって皆んな『エルトン・ジョンがお前の曲かけるんだってよ」とか言ってるのに、僕ときたら『そうそう!でも今この数学のテストやんなきゃ』みたいなノリでさ」という具合だったらしい。

スタークローラーは、同じミュージシャンである指導者としてシンガーソングライターのRyan Adams(ライアン・アダムス)を見出し、ハリウッドの彼の所有スタジオPax-Amスタジオで、アナログテープにデビューアルバムをレコーディングした。このデビューアルバムは、来年ラフ・トレードからリリース予定だ。アダムスは、デ・ワイルドの母オータムをインスタグラムでフォローしていたことからスタークローラーを発見したという。多くのロックミュージシャンがそうであるように、アダムスもまたオータム・デ・ワイルドに撮影されていたのだ。デ・ワイルドの母がアロウにアダムスからのメッセージを伝えた時、彼女の反応はと言えば、長い間行方不明の伯父のことを聞きつけた者のようだったという。「ライアン・アダムス?長いこと名前聞かないよね」と。

デビューアルバムやその背後にある意図を解説するよう彼らに求めると、スタークローラーは揃って口をつぐんだ。「僕らを皆んなのドラッグにしてくれよな」。キャッシュのその言い草は、まるで脅し文句のようにさえ聞こえたのだった。


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