23 September 2018

幾何学模様 (Kikagaku Moyo) | Whiteboard Journalインタビュー


10月5日、自主レーベルGuruguru Brainからニューアルバム「Masana Temples」をリリース予定の逆輸入バンド・幾何学模様(Kikagaku Moyo)。9月のインドネシア・中国ツアー時に、インドネシアのオンラインメディア「Whiteboard Journal」によって行われたインタビュー記事を翻訳しました。答えているのはいつもの通り、バンドのスポークスパーソンであるドラム担当ゴウ・クロサワ氏(写真中央・アムステルダム在住)。


【元ネタ英語記事】Kikagaku Moyo on Exploring New Sounds and Keeping Other Bands Alive(Whiteboard Journal 2018年9月12日)

<以下、当サイトによる翻訳(前文は省略)>





先月GQ誌で「10年間のベストドレッサーバンド」と呼ばれていました。メンバーの皆さんはたまたま全員同じようなファッションや髪型が好きだったのでしょうか?

全くの偶然です。あの記事って、多分何も扱うものがない時にたまたま僕らの写真を見つけちゃったんじゃないでしょうか。僕ら先月サンフランシスコのフェスでプレイしましたから。僕ら的には笑っちゃう感じですね。僕らはあまりハイファッションとは言えないですからね。


幾何学模様(Kikagaku Moyo)、まさかのGQ誌に登場(2018年8月14日)



音楽のジャンル的にはサイケデリックなドラッグと深く関係しているわけですが、日本にサイケデリック音楽の一大シーンがあるにもかかわらず、それを支えるドラッグカルチャーが本格的に存在したことがないというのは非常に興味深いですね。この点についてどのようにお考えですか?

日本のサイケデリック音楽ってあまりドラッグと関係ないんですよ。おっしゃる通りアメリカやヨーロッパと比べるとドラッグカルチャーってあまりないんです。僕が思うに、サイケデリックロックが70年代、日本に入ってきた時、日本人はよく分からなかったんじゃないでしょうか。日本人はドラッグ無しでももっとドラッギーな音楽が作れたんです。だって分からなかったら想像するしかないじゃないですか。サイケデリック音楽やアートを見て、本当の経験がなければ「クスリをやるってどんな感じ?」ってなりますよね。だからもっと極端で、感覚的なことより、もっとサウンドにフォーカスすることになったんじゃないのかな。それが日本のサイケデリックシーンの特徴のひとつだと思います、日本にシーンがあるとすればですが。これはどこにでも起こり得ることで、分からなければ感覚そのものよりもっと極端な何かで工夫できるってことです。

バンドの経歴の初期に、日本以外で多くプレイされていますよね。その理由は何だったのでしょうか?

それについては、話が長くなるから簡単にお話しすると…、日本には「ノルマ」っていうシステムがあってプレイするのにバンド側がお金払わなきゃならないんです。で、ハコ側が全て握ってる。サウンドもそうだし、ブッキングもハコ側がやる。プロモーターやブッキング専門みたいな人がいないんですよ。で、バンドを組んでライブやりたければ300米ドル払わなきゃならないのが相場です。あと練習にもお金がかかります。日本以外はこんなんじゃないって僕は知ってたから「OK、じゃあ僕らは海外ツアーをすべきだね」ってなって…。僕らの演奏に金を出してくれるっていうオファーをゲットしたら、その後日本でもプレイするけど、それがなかったら…。この世界をグローバルなエコシステム(収益活動協調体制)みたいに考えてるところはありますね。

日本出身のバンドっていうだけで、もっと東京でライブすべきだってことにはならないと思います。東京では年に一度プレイしますが、ロンドンやパリやその他の街と同じです。それがフェアじゃないとか思わないし、僕らにとってその方が理にかなっているんです。


左端:リュウ・クロサワ氏(シタール奏者)(Photo by Ardi Widja)


通常のメンバー構成とは別に、リュウはシタール奏者ですよね。あなた方の音楽に伝統的なサウンドをどのように調和させているのでしょう?

彼は僕の弟なのですが、インドに留学して伝統的な音楽を演奏し、修行してきました。メンバーにシタール奏者がいるバンドは60~70年代の、特に欧米のバンドに多いですよね。僕は、そんなに上手くなくてグダグダで、ありがちなアジアのヴァイブスを帯びた欧米のシタールのサウンドが本当に好きなんです。シタールの件はバンドにとってひとつの挑戦ではあったし、僕らはシタールの要素を違った風に取り込みたいと考えていました。だからリュウはアコースティックじゃなくてエレキのシタールを使っています。あとエフェクターも。伝統的な楽器ではありますが、親しみやすいようもっと現代的な使い方をしているんです。

もしインド出身で伝統的な楽器を持っているとして、まぁこの場合シタールなわけですが、その楽器が普通どのように演奏されるかってこと以外に、どう使ってやろうとかあまり考えることはないと思います。あまりに伝統的で長い歴史があるわけですから…。でも僕らは違う文化圏の出身だっていうだけで異文化から何か拝借したりすることもできるわけで、そういうのが音楽やカルチャーの面白いところだと思います。

とあるインタビューで、最初、幾何学模様の音楽の瞑想的な要素は宗教的アプローチとは何の関係もなく、ただの技量不足のせいだったとおっしゃっていました。初期の頃の方法論からは進化を遂げられたのでしょうか?

技術面については、ちょっと進化したと思います。人前に立つ時や観客の前でパフォーマンスする時、もっと自信が持てるようになりました。でもSoundrenaline(訳者注:サウンド・ルナライン。このインタビュー収録前に幾何学模様も参加したインドネシア最大級の音楽フェス)に出てるようなバンドとか、他のバンドの技術面については「ああ、このドラマーめちゃ上手いじゃん」みたいな感じで見てます。でも僕らは他のバンドがあまり上手くプレイできてないところを見るのも好きなんですよね。一生懸命やってるのが分かるし、僕はそういうのを見てる方が楽しいですね。一生懸命な時ってその人の人柄がよく出ると思うし。まぁその人の欠点を演奏スタイルでどうカバーするのかみたいな話になるわけですが。

クリエィティブな過程については、そうですね…、今トモと僕はアムステルダムに住んでいて、メンバー3人は日本の、それぞれ違う都市に住んでいます(訳者注:別インタビューによると、東京、大阪、福島在住とのこと)。だから作曲のプロセスも変化しているし練習のやり方も以前とは違います。前は一軒家で共同生活で、年中ジャムったりストリートでプレイしたりしてましたから。

だからニューアルバムについてはDropbox(訳者注:ドロップボックス。オンラインストレージサービス)を作って毎週アイディアを落としこんでいます。何だっていいんです。ただのハミングやリズム、自分が聞いたものや好きな曲。とにかく入れとこう!みたいなね。毎週違うフォルダを作って、お互いのインプットを聴き合うんです。で、トモと僕がそこからいろいろ組み合わせて、それをメンバーに送信して感想を聞いてみる。送信された側も僕らの創作に手を加える。で、完成度70パーセントになった時、ツアーをスタートさせてサウンドチェックの合間にどんなサウンドにすべきか考えるんです。常に曲をイジってるから曲が完成したと感じることはありませんね。

曲がいつ完成したかはどうやって分かるんですか?

自分が何を欲しているか分かってる場合もありますが、それってこんな感じなんですよ。何か物をを磨いていて、もっと丸くしようとしてるんだけど、一度磨き始めると形が見えてきて、自分たちがどの程度のところに到達できるか着地点が分かるようになってくる。僕らは自分達にそんなに多くを期待してないですし、自分達のことをそんな真面目に考えてるわけじゃない。だから大抵「ああ、これが僕らにとっての完成品だ」みたいな感じで落ち着くんです。



 


「Stone Garden」(訳者注:最新EP)では、リスナーをまた違った爽快な旅路に導くような新しいサウンドが実験的でした。その背後にあるものは一体何だったのでしょうか?それ以前のレコードと制作過程はどう違いましたか?

「Stone Garden」をレコーディングする計画は特になかったんです。ヨーロッパツアーの合間に2日オフがあって、プラハ出身の友人の一人がスタジオを持ってて、そこで2日間レコーディングすることができたんです。特に素材とかはなかったんですが、ただ3日間そこに籠ってジャムしてました。結果、数時間分のジャムが素材として残ったので、それを僕らの友人に託して、彼が構成とかミキシングとか全てやってくれました。

モティベーションについては「House in the Tall Grass」をリリースした時の出来事から来ています。UKのメディアに、僕らはポップでキュートなサウンドにしようとしてるとか言われて、Tame Impalaと比べてだいぶ良くないとか…。まぁ言いたいことはよく分かるんですが。あと僕は音楽をやり始めた頃の純粋な感情を表現したいとも考えていました。作曲のこととかどうでもよくて、ただ演奏やジャム、そのピュアなエネルギーにだけ注力したい。僕らが「Stone Garden」でやりたかったのはそういうことです。

では「Stone Garden」は2日間のジャムセッションと1件の低評価レビューの賜物だったというわけですね。

その通り。良いレビューを見た時は大抵「いいじゃん」って思うんだけど、悪いのを見た時は、この人たちが嫌いなものを僕は作っちゃったんだみたいになって最初の頃は悲しんだりしてました。でも実際のところこの類の評論って刺激にはなりますね。そういったアイディアを自分の音楽に活かすこともできますから。


あなた方のレーベル「Guruguru Brain」はインドネシアのバンド「Ramayana Soul」のレコードもリリースされています。なぜ彼らに興味を持ったのか聞かせて頂けますか?

Guruguru Brainを始めた頃、アジアの音楽シーンに注目したいと考えていました。とりわけ現在のシーンについてです。ロックはアメリカやUKの人達とか英語が喋れる人達だけのものじゃないってことを証明するのが重要だと考えています。でも現実は、フェスのラインナップを見てもヨーロッパやアメリカのバンドばかり。アフリカや中近東やアジアのバンドなんていない。どうして?もっと多様性が必要じゃないの?僕には違う言語の歌詞の音楽の良さが分かるのに、なんでアメリカ人は違うの?…そういうのが僕らの最初のモティベーションだったんです。

Ramayana Soulに関しては、インドネシア語そのものとはまた別に、僕らには作れないものを持っていますね。伝統的過ぎず型にはまり過ぎず、ほど良いバランス感のあるバンドです。欧米の市場は大きいし欧米人に興味をもってもらう必要はありますが、皆さんの中にアジア人のアイデンティティーを持っていてほしいし、僕らはそれをRamayana Soulの中に見出したんです。




幾何学模様(Kikagaku Moyo)メンバー:
左からトモ・カツラダ(ギター&ヴォーカル)、ゴウ・クロサワ(ドラムス&ヴォーカル)、
リュウ・クロサワ(シタール&キーボード)、コツ・ガイ(ベース)、ダウド・ポパル(ギター)


音楽については、インスピレーションを得る上で誰を尊敬していますか?

僕らは皆んなそれぞれ違った音楽を聴いているから、答えるのは難しいですね。でも、僕らはKing Gizzard & The Lizard WizardみたいにDIY的なアプローチをしている人達からより強い影響を受けています。彼らは自分達のレーベルを持っていて自分達のシーンをサポートしています。特にメルボルンの音楽シーンですね。基本的に従来この種のアプローチは自主制作リリースによるもので、誰も気に掛けてくれないなら全部自分達でやんなきゃみたいな感じでしたが、僕的には今、そのコンセプト自体を変えたいなって思ってます。資本主義体制における政治的表明のひとつとしてね。

レコード会社のオーナー達は、比較的大きなバンドが自主リリースを始めたら業界自体を完全に変えられてしまうって恐れてる。あとオーディエンスは、ライブで物販を買って落としたお金がバンドのサポートに役立つと実感できることに気付き始めてる。でもAmazonでレコードを買っても、商品は届くけどバンドをサポートしてるっていう実感は得られない。アーティストをサポートすることは業界をサポートすることにもなるし、長い目で見れば気に入ったバンドを生かし続けることになるってことを皆んなに気付いて欲しいと思います。

自身のレーベルを所有することで、あなた方は他のバンドを輝かせ、音楽シーンのキュレーションもしていることになります。この点については初めから動機としてありましたか?

そうですね、それに僕はレーベルに反対の立場ではありません。レーベルはいろいろな方法で使えますからね。音楽だけやるバンドもいれば、自分達でマネージメントまでやるバンドもいる。あと、アジア人としてある種のヒエラルキーの存在を感じ始めていたんです。どのバンドもUKやアメリカのレーベルからリリースされるのが最終目標だと思ってるってね。でも自分達でレコードを自主リリースしても海外に出れるわけじゃけない。なんでアメリカで成功することが世界で成功することになるんだろう?インドネシアや日本で成功してもそうはならないのに。そこに文化的なヒエラルキーみたいなのがあるわけです。あと皆んな文化的に洗脳されちゃってて、今の価値観のまま変わりたくなければ変わる必要なんかないって思わせるような時代に今はなっちゃってますよね。

僕はアジアのバンドにアメリカやヨーロッパでツアーできるようになってもらいたいんです。オランダに移住した理由のひとつに、幾何学模様が年中海外ツアーをしてるから海外で物件を購入したというのがあります。自分のレーベルのアーティストにも気軽に来てもらって、無料で使ってもらいたいんです。あとツアーを廻ってたくさんのブッキングエージェントと知り合いになりつつあるし今はコネもあるから、僕らのレーベルのバンドを繋いで海外に呼ぶこともできるわけで、アルバムをリリースして金儲けするだけのレーベルではなくなっています。

あなた方のライブからファンは何を期待することができるでしょうか?ステージ上であなた方のサウンドはどのように変換されるのでしょうか?

何も期待なんかしないで下さい。そして僕らの音楽が好きならどうぞ楽しんで下さい。何のメッセージも押し付けたりしないし、僕らはただプレイするだけです。僕が言いたいことは、今まさにあなたにお話していることであって、音楽で言いたいことなんて何もないです。僕が皆んなに感じて欲しいのは、音楽は普遍的なものであって皆んなが音楽に繋がれるということです。ファンの皆さんにはいい時間を過ごしてもらいたいし、そうすれば僕らもいい時間が過ごせるし、その結果良いエネルギーの交換ができる。ステージでは正直でありたいし、ありのままの僕らを見てもらいたい。僕らは飛びっきり素晴らしくて飛びっきりカッコいいバンドなんかじゃないし、音楽を演りたいだけの普通の人々の集まりに過ぎないんです。





2018年10月5日発売「Masana Temples」より
幾何学模様(Kikagaku Moyo) - Gatherings




何か計画中のプロジェクトはありますか?

ニューアルバム「Masana Temples」をリリースする予定で10月5日にGuruguru Brainから発売されます。今、梱包して発送の準備中です。今後については、ニューシングルとかブラジル音楽のカバーのようなプロジェクトを計画中です。僕らブラジル音楽が本当に好きなんです。でもポルトガル語は喋れないから日本語で歌うとか?あと映画のサウンドトラックをやることにも興味があって、たくさんのアーティストとコラボしたいですね。僕らは物販で年中誰かとコラボレーションしてますから。あとはもっと女性アーティストをプッシュしたいなって考えてます。この業界って本当に男性中心で、僕らの目標としてこれを変えていく力が僕らにはあると思うんです。



◆あわせて読みたい当サイト幾何学模様(Kikagaku Moyo)人気記事: