18 August 2022

Simone Marie Butler | プライマルスクリームのシモーヌ・バトラー出演ドキュメンタリー映画「Year of The Dog」(2021年)

"Year of the Dog" - サウンドトラックは全曲Little Barrieが担当


Primal Screamのベーシスト、ラジオDJ、他バンドへの参加等、多彩な活動を見せる”僕らの姉貴”ことシモーヌ・マリー・バトラー(Simone Marie Butler)。実は2021年に、路上で暮らすホームレスとその飼い犬についてのドキュメンタリー映画の製作に携わり、自ら出演&ナレーションまで務めている。

この1時間7分のドキュメンタリー映画であるが、日本からはダウンロード不可のようで、あまり報道もされてないようなので、シモ姐のコメントが一番多く載っていた英語記事を翻訳してみることにする。とにかくトレーラーだけでも見てほしい。ちなみにサウンドトラックは、全曲あのバーリー・カドガン(Barrie Cadogan)が担当している。


Year of the Dog | Official Trailer


【元ネタ英語記事】Primal Scream’s Simone Butler on her “eye-opening” new documentary, ‘Year Of The Dog’ (NME 2021年11月12日)

以下、当サイトによる翻訳


ドキュメンタリー映画の新作『Year of the Dog』のプレミア上映に先立ち、プライマルスクリームのベーシスト、シモーヌ・マリー・バトラーが、ホームレスとその犬達を描いた映画の製作中に見出した様々な発見についてNMEに語ってくれた。

本新作はポール・スン(Paul Sng)監督(『Poly Styrene: I Am a Cliché』『Dispossession: The Great Social Housing Swindle』『Sleaford Mods: Invisible Britain』等の作品で知られる)のディレクションによるもので、ミュージシャンでありDJでもあるシモーヌ・バトラーが、Dogs On The Streets(DOTS)(ホームレスとその犬達の健康と福祉のために活動するボランティアグループ)とタッグを組み、彼らが路上生活から永遠に抜け出せるよう支援する様を描いた作品となっている。

映画の概要はこうである。「世界的なパンデミックは社会で最も弱い立場にある人々がいかに危うい存在であるか露呈させた。『Year of the Dog』はストリートドッグとその飼い主の絆に光を当て、英国最大の試練の時に繰り広げられた小さな生き残りの物語を描いた作品である』。


雑誌「Big Issue」のベンダーとシモーヌ・バトラー


動物好きのシモーヌ・バトラーが初めてこの団体の存在を知ったのは、犬を飼おうといろいろリサーチしていた時のことだった。Soho Radioの自身の番組『Naked Lunch』でDOTSの創始者ミッシェル・クラーク(Michelle Clark)をインタビューしてから、本ドキュメンタリー作品のアイディアはすぐ形になり始めた。

「DOTSの活動はとても素晴らしいのに、メディアが十分報道していないと感じたんです」バトラーはNMEにそう語った。「住む家を失ったことや路上生活者だということ、それにそういう人たちが犬を飼うことにつきまとう偏見に一石を投じたくて、何か発信しようと考えたんです」。

バトラーは、この映画製作がいかに「目から鱗の経験」だったかについても語ってくれた。ホームレスの人々が路上で犬を飼うことに対する誤解や通説の数々を払拭する手助けをした経験のことである。




「自分が責任を持たなければならないもう一つの命がそばにいるのって大きな安心感につながるし、路上で生活する人達にとって手助けにもなるんです。やるべきことや責任が生じますからね」バトラーは言う。「それに頑張る理由が出来ますよね。路上で生活するのって絶望的で過酷な状況にもなりますから。犬の面倒を見ることやその犬との尊い絆が、そういう状況に置かれた人達にとってどれほどの生命線になるのか、この経験のおかげで本当によく理解できたんです」。

バトラーはこう続けた。「ちょっと前に友人に言われたんです。自分の犬を飼ったら一瞬で家族になってその子のために死ねるって。住む家がない状況だと人との交流やつながりが希薄になることもあると思いますが、犬の存在や、犬のおかげでできたコミュニティーが、彼らに帰属意識を与えてくれるんです。路上生活ほど孤独で危険な場所はないでしょうから、そういう関係性ってとても大切なんです」。

映画製作への参加から学ぶことも多かったと認めながら、バトラーは過去に抱いていた自身の思い込みが覆されたことも話してくれた。「以前の自分は(路上生活者に飼われるのが)犬にとって良いことなのか疑問に思っていました。でも犬の世話をする路上生活者の人達って、自分より先に犬に食事を与えるんですよね。そういう犬って信じられないくらいよく躾けられているんですが、きちんと社会化されていて、自分を守りケアしてくれる飼い主といつも一緒にいられるからですよね」。

「そういう犬達って、自分を無条件に愛してくれる人間と信じられないくらい素晴らしい生活を送っていて、気性もとても穏やか。問題行動がある犬は一匹もいませんでした。中傷するつもりはないですが、犬のしつけに真面目に取り組もうとしない飼い主だっていますよね。でも路上で四六時中飼い主と一緒に過ごせる犬は、飼い主といつも変わらない関係を保つことができています。お互いに本当に気遣い合ってるんです」。

また本作では、英国の路上生活に関する厳しい統計データにも目を向け「深刻な社会問題」だとしている。バトラーが本作の製作から導き出した結論は、「路上で暮らすホームレスとその犬達に対し、もっと正しい知識を持って思いやりのある見方をすべきであり、この問題にどう対処すべきかもっと深い知識が必要」とのことである。<以降、上映イベントスケジュール部分省略>


ダウンロードはこちらから(UKとアイルランドからのみ可)


◆あわせて読みたい当サイトSimone Marie Butlerインタビュー記事翻訳:


9 August 2022

テンプルズ(Temples) | メンバーが語るサム・トムズ(Sam Toms)脱退の真相とは?

 


2018年のドラマー、サミュエル・トムズ(Samuel Toms)の突然の脱退。これについて無難な答えに終始していたテンプルズ(Temples)のメンバーが、独メディアにチラっと本音を語ったインタビューがあったので、遅ればせながら翻訳してみることにする。思えば初来日の時も、サムだけがUKから直行。他のメンバーはドラムに代役を立てたSXSWを終え、アメリカから来日…。他のメンバーが長年、サムのバンドに対する姿勢に不満を持っていたことが読み取れる内容となっている。

【元ネタ英語記事】Temples - Interview (Bedroomdisco 2019年9月27日)

以下、当サイトによる翻訳


これまでアルバム3枚をリリースされているので、アルバムの制作過程について、スタートから完成までどう進めていくか、バンドなりのお考えがあると思います。テンプルズの通常進行のレコーディングって、ざっくり言うとどんな感じなんですか?

トム:僕らの場合、いつも時間がかかりますね。作曲とレコーディングについては、かなり集中的に取り組んでいるので、もしアルバムを6週間で完成させるとしたら、どうすればいいか分からないかも…。じっくりアイディアを練り上げてから、1枚のアルバムと呼べるものに時間をかけて仕上げていくスタイルが僕らは好きですね。

ジェームス:曲によってはコアとなる要素が出来上がるのにミニマムな時間しかかからないこともある。例えば『Hot Motion』がそうで、リズムセクションとメロディーが先に上がっていて、僕的にはあの曲を盛り上げてるのはベースだと思うんだけど、完成まで数日しかからなかった。曲によっては熟成するまでに時間を要するものもあるから、平均的なやり方みたいなのはないんですよ。他の曲を仕上げるのにかかりっきりで2ヶ月位ほったらかしにしてた曲もあったかもしれない。ある曲のアルバム内での位置付けとか、どこを変えなきゃならないとかは後になって初めて気付くものだし、なかなか分からないものなんです。じっくり考える期間を経たからこそフレッシュな視点が持てるんですよ。

アダム:このアルバムは、プロダクションとか、しっくりくるアレンジの仕方だとかに重点的に取り組んでいて、余分なものは削ぎ落されてる。前作ほどエフェクトも多くないし。


ファーストアルバムを出してから、60年代志向のヴァイブスから脱皮したいと思われていましたか?

ジェームス:アプローチの仕方を変えたいとは思ってましたけど、60年代風なサウンドはもう出来ない、シンセサイザーは止めようとかは思ってなかったです。ファーストアルバムについては、昔の誰かのモノマネに過ぎないから好きじゃないって人が割とたくさんいたことは心に留めておくべきで、そういう人達にとってあのアルバムは目新しくもなく、オリジナリティーにも欠けるわけです。(2枚目以降について)僕らはもっと現代的なものを作りたかったんだと思います。そうする上で、自分たちの本能的な直感とは真逆なものを追い求める形になって、自分達の特徴的なキャラクターの中には楽曲から抜け落ちたものもありました。ファーストアルバムは基本、直感に従っただけ。セカンドアルバムは直感との闘いで、自分たちが前にやったことより優れた何かを生み出せれば…って考えながら制作した感じ。


ファーストアルバムが好きだって公言した人もいましたよね。ノエル・ギャラガー(Noel Gallagher)は、ああいう音楽をもっとラジオで聴きたいって言ってましたし。そういう期待に応えるのは難しいと感じていましたか?ハードルが上がって重たいとか?

アダム:最初の頃は、そんなこと考えてる時間さえあまりなかったですね。すぐにツアーに出なきゃならなくて、それも世界中を廻るハードなツアーで、今まで見たこともない場所に行ったり、アメリカのテレビ番組に出たのはとても奇妙でシュールな体験だったんだけど、全てが本当にあっという間だった。それから2年間ツアーを中断して、内に籠って『Volcano』を作り始めたんですが、重たいとかは思わなかったですよ。

ジェームス:セカンドアルバムっていうのはかなり特殊で、この感覚は、1枚目にしてアルバムを大当たりさせた人じゃないと、説明しても分かってもらえないと思う。取るべき道はたった2つ。ファーストアルバムと同じことをしてファンの多くをキープするか、何か新しいことをするか。ホント、特殊な状況なんですよ。次回作を作りたいわけなんだけど、そこには一定レベルの期待値みたいなのがあるから、ファーストと全く同じことはやりたくないっていう…。プレッシャーはあったと思いますよ。曲は書けるんだけど、セカンドにふさわしいサウンドを探しあぐねてた。サウンドは見つかったし、シンプルにまとまったアルバムにはなったけど、もう二度とセカンドアルバムを作らなくていいっていうのは最高ですね。


Temples - "You're Either on Something"


サム・トムズ(Sam Toms)がバンドのドラマーでなくなった理由を明かして頂けますか?

ジェームス:サムとはずっと話し合う必要があると思ってたんだけど、それで脱退してもらうことになったんです。バンドっていうのは、いつもメンバーの顔触れが固定されてなきゃならないなわけで、お互いに気遣いあう関係性も必要。個人的なレベルだけじゃなく音楽的にもね。僕らは自分たちが作る音楽に真剣に取り組んでいるし、それがライブパフォーマンスっていう話になると、ステージで全員揃って演奏するっていうのが絶対ハズせない肝になるわけです。ライブ後に何が起ころうと全然構わないんだけど、そのことでライブや自分たちの音楽活動に支障が出るとしたら、それってクールだとは言えないですよね。僕らは何年もそういうのに目をつぶってこなきゃならなかった。だから決断する必要があったんです。


ある意味、自己管理がなってなかったということ?

トム:そうだと思いますよ。それって無条件なことですよね。僕らは皆、ノーサンプトンシャーにあるケタリングっていう町で一緒に育ったようなもので、そういう絆って人と人を団結させるものじゃないですか。バンドの中では自分の担当するパートを演奏しなきゃならないわけで、ジェームスが言ったように、もしライブをやるのに支障が出るとしたら、それは僕らの音楽活動に妥協することになってしまう。


支障が出るってどんな風に?

ジェームス:(現場に)来ないとか?

トム:うん、主にそれだよね。4人組として演奏出来ないことが結構あったけど、気分のいいものではなかったですね。


えっと、サムは今、規律にうるさいことで知られるファット・ホワイト・ファミリー(Fat White Family)でプレイしてますよね。完璧にうまくやっていくには…。

全員:(笑)

アダム:彼らは全員同時に遅刻するだろうから、誰も遅刻してないってことになる。なかなかしたたかな策略かも。


このアルバム(3作目の『Hot Motion』)のドラムパターンは面白いですよね。まるでディストピアのマーチングバンドからやって来たようなサウンドに聞こえる楽曲も多いです。事前に発表されたコメントの中で、『The Howl』のことを、『古代の祖先に敬意を表し、足を踏み鳴らし前進していくリズムセクションに鼓舞される戦闘への招集』と表現していらっしゃいます。(サードアルバムは)歴史的な意味での英国人気質的なものを狙った作品なのでしょうか?

トム:そうですね、(3作目は)英国の歴史だとか感性から来ている部分は多いですね。ストーリーテリングやソングライティングに対するアプローチの仕方や歌詞、楽曲の壮大さ、メロディーに対するこだわりとかもね。今僕らがやっていることの強味でもあり、自分達のことをそれほど真剣に考えない英国人的な気質とブラックユーモアなコメディーの要素が組み合わさってるっていうか。

アダム:でも意図的にではないよね。『この曲は英国っぽくなったかな?』とか、じっくり考えてやったわけではないです。僕らが英国人で英国音楽のファンだからそうなっただけで、持って生まれた気質なんでしょうね。

ジェームス:コメディーでも童謡でも脚本でも、悲劇とユーモアをほぼ一言で言い表すことが出来るのは、僕らのDNAの中にあるものだよね。このアルバムにはそういった要素がある。うん、これは英国のレコードなんだけど、僕らの中にあるヨーロッパ人の部分も現れてる。だからブレクジット(Brexit)なアルバムじゃないし、『ブリテン・ファースト(Britain First)』でもない。


国民投票には行かれたんですか?

全員:はい。




EU残留に投票?

アダム:僕ら3人共、それと僕らと同世代の知り合いは、ほぼ全員そうだよね。

トム:統計的に言うと、(投票後に)亡くなった人の数と参政権を得た人の数をプラスして投票結果に足せば、今なら残留っていう結果になるらしいよ。

アダム:僕らの故郷ケタリングは、離脱のパーセンテージが最も高い地区のひとつだったよね。

トム:ってことは、僕ら残留組3人は孤立しちゃってるってことか(笑)。


アレクサンダー・ボリス・ド・フェファル・ジョンソン(Alexander Boris de Pfeffel Johnson)が次期首相になることについてはどう思われますか?

ジェームス:崩壊していく世の中を目の当たりにするっていうのはエキサイティングかも(笑)。保守党が与党でいる限り、僕らとの共通点は何もないですね。国民をさらに分断するおかしなことさえ導入しなければ、誰が首相になろうとどうでもいいかな。僕らの国で助けを必要とする人達にとって、首相が誰とかあまり関係ないんですよ。いいなって思える候補者はゼロだから。ホント笑っちゃいますよね。ボリスって道化師みたいで、まるで漫画のキャラクター。一国のリーダーって感じではないですよね。


『Atomise』という曲は、我々が種として生き残る為、環境に配慮すべきだという警告とも取れます。迫りくる危機に対して行動を起こそうといったメッセージを発信すべきだと思われていますか?

トム:そうですね、全くその通りです。自分達を取り巻く環境とのスピリチュアルな繋がりというか、一方で自然を恐れながら、究極的には自然と繋がっていたい…みたいな。でも6月のベルリンが摂氏40度とかって恐くありませんか?氷冠が溶け出して、やがて世界が水没するとしたら?僕らは母なる地球を大切にしないといけないんです。


特に、皆さんは島国出身ですから…。

全員:その通り!

アダム:みんな忘れちゃってるけど、英国はあんなに小さな島なんだし、僕らは小さな島国の民族でしょ?小さな変てこな島の民でしかない。もし母なる自然が津波か何かを引き起こすことがあれば、もう壊滅的ですよね。


もっと軽い話題に移りましょう。サイモン・レイノルズ(Simon Reynolds)が最近、グラムロックとそのレガシーに関する著書『Shock and Awe』を出版しました。『The Beam』や『Step Down』といった楽曲には、このジャンルと同様の興味が見て取れますが、バンドとして、耽美なグラムロックからどんな影響を受けていますか?

トム:僕もあの本を買って半分読んだところです。レイノルズの言葉を借りれば、1950年代以降の音楽でアイコンという概念が生まれ、そのアイコンに1970年代の奇妙キテレツな加工が施された結果、狂気な世界観で面白みのある新たな一面が音楽にもたらされた…ってことだと思います。

ジェームス:グラムロックにはちょっといかがわしいいところもありますよね。ヘアグラムとか、呼び方はどうであれ、グラムロックのパクリとか思われたらヤだなぁ(笑)。ああいうアンドロジニー(両性具有)なところが、ちょっといかがわしく感じるし、ブリティッシュなのかも。だけどレコーディング方法を除けば、音楽的にそんなに変わってるわけじゃない。トムが言ったように、50年代の曲のセンスって、基本コード少なめで、ハッピーでメランコリックなメロディーで、ちょっと童謡チック。でも70年代になると、カミソリの刃みたいな、ミキサーにかけられたか、おろし金の上に乗っけられたようなギターサウンドの渦に放り込まれる。かなりヘビーで、グラムロックにもそういうところがあるんだけど、とても本質的で直感的で大胆不敵、誰かが身を潜めて隠れてるみたいなサウンドじゃない。グラムロックには僕らも感じるものがあるし、アイディアを取り入れてる曲もあります。まぁ音楽の引き出しの一部ですね。

トム:でもグラムロックのサウンドにはもっと注目すべきじゃないかな。例えばボウイ(David Bowie)やボラン(Marc Bolan)。グラムロックに必須の神秘性や魔力がなければ、うわべだけの使い捨てとしてすぐ忘れ去られてしまう。賞味期限だって短い。僕らがグループとしてグラムについても追求しようとしてるって、みんな分かってくれるといいんだけど。


Temples - "Hot Motion"


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