24 September 2022

Starcrawler(スタークローラー)|Arrow de Wilde(アロウ・デ・ワイルド)ネット上のヘイトについて語る

 

End of the Road Festival (2022) @UK (Photo: Burak Cingi/Redferns)


Starcrawler(スタークローラー)の3枚目のアルバム<She Said>の海外盤が2022年9月16日にリリースされた。関連する英語記事やインタビュー動画をチェックしていたところ、ちょっと前(2022年6月17日)、アロウ嬢が自分の体型に関するヘイトについてインスタグラムに投稿した件を取り上ている記事を発見。アロウ嬢が自分のことをいろいろ話していて興味深いので翻訳してみることにする。

【元ネタ英語記事】Starcrawler's Arrow de Wilde on battling body-shaming trolls and being proudly different: 'My worst fear is just being forgotten'(Yahoo Entertainment 2022年9月20日)


以下、当サイトによる翻訳

ロサンゼルスのネオ・グラム、ガレージ・ロックバンドStarcrawlerは、3枚目のアルバム<She Said>のリリースに向けBig Machine Records(ビッグ・マシーン・レコード)と契約。今や新しいロックシーンをけん引する存在となった彼らは、My Chemical Romance(マイ・ケミカル・ロマンス)、Jack White(ジャック・ホワイト)、Nick Cave(ニック・ケイヴ)のようなメンツとツアーし、Dave Grohl(デイヴ・グロール)、Elton John(エルトン・ジョン)、Sex Pistols(セックス・ピストルズ)のSteve Jones(スティーヴ・ジョーンズ)、Tom Petty(トム・ペティ ※Tom Petty and the Heartbreakersのこと)のギタリストMike Campbell(マイク・キャンベル)、Nikki Sixx(ニッキー・シックス)等の有名人のファンを獲得。特に、Garbage(ガービッジ)のShirley Manson(シャーリー・マンソン)はフロントウーマンArrow de Wilde(アロウ・デ・ワイルド)の激しく恐れを知らぬ姿に自身の姿を重ねているようだ。

が、残念なことに、Starcrawlerの知名度が上がるにつれ、23才のデ・ワイルドの細身で長身の体型に、主にネガティブな注目が集まるようになった。やがてネット上のヘイトは激しさを増し、デ・ワイルドはインスタグラムで荒らし的なコメントに対処せざるを得なくなったという。


「こんなこと書くべきじゃないし、絶対に書かないと自分に言い聞かせてた。子供の頃から私の身体を見てあれこれ決めつけてくる人達に対処してこなきゃならなかったけど、ここ数日はこれまで経験した中で一番酷かった」。

 

デ・ワイルドはインスタグラムのキャプションにそう書き込み、昔からズバ抜けて背が高く痩せていたことを示す子供の頃の写真を添えた。


「インスタグラムやTikTokでの私の身体に関するヘイトの数ってバカみたい。この件についてこれまで取り上げることはしなかった。正直、誰に説明する必要もないと思ってたから。自分の両親や親戚は今の私より痩せてるとは言わないけど、私と同じくらい痩せていた。瘦せ型なのは遺伝で、背が高いのも遺伝。自分は身長6フィート3インチ(=190cm)あって、異常に代謝が良く、ウンコは1日3回するし、誰よりも大食い。コレについてはホントどうにかしたくても何も出来ないんです。だけど自分が本気でイヤなのは、仮に私に摂食障害があるとして『チーズバーガーを食え』だとか『死にそう』だとか言ってくることが本気で私のためになると思ってるわけ?『痩せ過ぎだ、もっと食べなきゃ』『デカ過ぎだ、もう食べるな』。こういう人達って、自分が持ってる偏見を"アドバイス”だとか”心からの心配”だとか偽ってるだけで、実際はろくでもないヘイトだったりする。どんな体型の女性だって体型を変えろなんて言われる筋合いはないはず。苦しんでるんじゃないかって思う人が自分の娘、姉妹、妻だったら、そんなこと言います?ヒトの身体についてあれこれ言う権利があるってなんで思うんだろう?それになぜ私の身体には"個人的なアドバイス(PSA:Personal Self Advice)"が付いてまわらなきゃならないわけ?」



(Photo: Gilbert Trejo)



「長いことそういうのが続いてたから、頭の片隅ではいつか何か言わなきゃな~とは思ってたんです」。LAの自宅の裏庭からZoom経由でYahooエンターテイメントと繋いだデ・ワイルドはそう語った。ちょうどTroubadour(トルバドゥール ※ハリウッドのライブハウス)でのプロムをテーマにしたShe Said発売記念パーティーを盛大に行うための飾り付けを作っているところだった。「でもいつも先延ばしにしちゃってて。それに絶対に望ましくない方向には行ってほしくなかった。でもTikTokを始めたら…、コメントが何百件も来てほとんど全部が私の身体のことを言ってた。そういうのには慣れてるんですけど、投稿1件につき数件みたいなのには慣れてたんだけど、今回のは殺到と言った方が良くて『死ねばいいのに』みたいなのとか、もう異常でした」。

あのインスタグラムの投稿は、彼女が拒食症であるとの噂を打ち消すためにしたのではないとデ・ワイルドは強調する。そんなことをしても無駄だからだ。「自分の言うことを全然信じてくれない人達っていうのがいて、どうすることも出来ないんです。生まれつきこんな風に痩せてるんだって言っても全然信じてくれない。どうしろっていうのか全然分からない!やりたいんならチーズバーガー20個、強制的に食べさせてもいいけど、そんなことしても私の見た目は何も変わらないって断言しときます」。むしろ彼女は実際に摂食障害に苦しむ人が日常的に戦わねばならないネット上での侮辱に異議を唱えるため、あの投稿をしたのである。

「自分には摂食障害はないけど、摂食障害がある人をヘイトする人がいるっていうのが本当に変。仮に私が拒食症か過食症だったとして、こんな酷いコト言って私のためになると本気で思ってるわけ?効果があるとかマジで思うわけ?拒食症とかで苦しんでる人のことが気に入らないっていう人達がいるの、本当に面倒くさい」。デ・ワイルドはそう不満を漏らす。「メッセージでああいうのを見つけるのはもうウンザリ。『なんでそんなに怒ってんの』って感じ。他人の脳ミソの中までは分からないけど、ますます落ち込んじゃうと思う。だって、自分が本当に摂食障害だったら、ああいうコメントを見たらさらに悪化すると思う。…私に『ちょっと心配で』とか言ってくる人の意味が分からない。超気が狂ってること言ってるのに、『ちょっと心配になって!ヘイトのつもりはないです!ただ心配で!』みたいな感じ。こっちとしては、アナタ何も心配してないっしょ。私のこと知らないでしょ。なのに何で心配する必要があるわけ?って感じ」。



Starcrawler - "Roadkill"



子供の頃からずっと、デ・ワイルドは周囲に馴染めず、小学校ではあまりに他の子と違っていたため「ちょっとイジメられた」のだと明かしてくれた。実は、Starcrawlerの2019年の楽曲「Lizzy(リジ―)」は、「子供の頃にトラウマになったある出来事」について書かれたものだという。小学1年生の時、Lizzyという名前のクラスメートが、まるで映画<Carrie(キャリー ※アメリカのホラー映画(1976年))>のワンシーンのように学校のトイレでアロウを待ち伏せしていた。「トイレの個室でオシッコしてたら、突然Lizzyが友達とやって来たのが聞こえて、誰かをヤル気満々だった」アロウは回想する。「足を隠そうとしたんだけど(※アメリカのトイレのドアは防犯の為短く、足が丸見えになる)、Lizzy達は中に誰がいるのか確かめようと個室のドアをバンバン叩いてきて、私はウンコもしてたからホント恥ずかしかった。で、Lizzy達は私を見つけて悪態をつき、私の足首を掴みながら何か叫んでた」。



Starcrawler - "Lizzy"


Sleeping in the bathroom stall

Teacher screaming at me

Lizzy wants to have some fun

But I know what that really means

Took my lollipop, ripped my valentine

Little miss garbage girl

Push me for the very last time

I think I'm falling down

I'm falling down...


またデ・ワイルドには、名高いロックフォトグラファーでありビデオディレクターでもあるAutumn de Wilde(オータム・デ・ワイルド)とベテランドラマーAaron Sperske(アーロン・スパースク:Beachwood Sparks(ビーチウッド・スパークス)、Father John Misty(ファーザー・ジョーン・ミスティ)、Ariel Pink(アリエル・ピンク)、Pernice Brothers(パーニス・ブラザーズ)等で活躍)の娘として、普通でない環境で育った為、周囲に馴染めないという悩みもあった。「ウチにはいつも色んなバンドメンバーが泊まりにきたり、訪ねてきたりしていて、自分はそういう環境で育ちました。それが普通だと思ってたんです」。アロウは肩をすくめた。10才位になるまで両親のロックンロールなライフスタイルが普通ではないことに気付かなかったという。自分の家より標準的で保守的な友人宅のディナーに招かれた時のエピソードを話してくれた。

「全員でテーブルを囲んで食事したんですが、そんなことしたこともなかったんです。理由の一つは両親が離婚してたこと、二つ目の理由はウチはいつもテレビとか見ながら食事していたこと。(食事は)大切な儀式的なものじゃなかったから、そういうのを経験したことがなかったんです。で、そこんちのパパはアイルランド系カトリック教徒だったから『それでは感謝の祈りを捧げましょう(=Say grace)』みたいなノリで。自分の両親は信心深いとかそういうのではなかったから、自分はもう食べ始めちゃってて、そこんちのパパに怒られちゃった」。アロウは回想する。「そこんちのパパの顔が真っ赤になってて超怒ってたけど、自分にはどうしてか全然分からなくて。『グレース(Grace)って誰?』って感じだった。あの時が『あ、そうか。きっとこっちが普通なんだ』ってはっきり自覚した瞬間だと記憶してます」。



Starcrawler - "Stranded"



しかしながら、子供時代の変わった環境はアロウをロックンロールの道へと導くことになる。「ウチの両親って、インスピレーションを掻き立てるように音楽を教えてくれたんですよ。必ず会話の一部になってて、やらされてる感がない」。そして中学生になるまでに「自分のスタイルが見えてきた」のだという。「Bikini Kill(ビキニ・キル)にハマって、Black Flag(ブラック・フラッグ)、それからOzzy Osborne(オジー・オズボーン)やその周辺の音楽に出会って、クールなモノにハマり始めたんです。まだあんまりよく分かってなかったですけどね。自分はちょっとしたTumblr女子的な感じだったんですが、そのおかげで自分以外にも世間の標準からズレてる女子がいることに気付けたんです」。また彼女は「ロックの世界にいる人ほぼ全員」が、自分のような社会不適合者であることに誇りを持っているのに気付いたという。「高校時代、カッコいいとされてたロックスターで私が知ってるのって、Mötley Crüe(モトリー・クルー)のVince Neil(ヴィンス・ネイル ※破天荒キャラで有名)だけだったと思いますが、なるほどって感じですよね」彼女は笑う。

皮肉なことに、アロウは彼女が通う高校で最もクールなキッズだったとも言えるだろう。10代になる頃までには自分の個性を受け入れ、KISS(キッス)をテーマにした16歳の誕生パーティーを開催、ハリウッドにある70年代にインスパイアされたヒップスター・バー<Good Times at Davey Wayne's>で父親の結成したカバーバンドで歌うことさえして、敬愛するCherie Currie(シェリー ・カーリー ※The Runawaysのリードボーカル)をコピーしてThe Runawaysの<Cherry Bomb(チェリー・ボンブ)>をシャウトしていた。「パフォーマンスの良い練習になりましたね」と彼女は語る。アロウはまた、年上の友達でThe Runawaysの熱狂的なファンであるLily(リリー)とLAのクラブシーンに繰り出すようになる。「リリーは過酸化水素水で脱色したFarrah Fawcett(ファラ・フォーセット ※テレビドラマ<チャーリーズ・エンジェル>等で有名なアメリカの女優)の髪型で、短いホットパンツにシルクのボンバージャケットを着て学校に通ってた。自分も髪をブロンドにブリーチしていろんなクラブに一緒に行ったけど、クラブに潜り込むのはそんなに難しくはなかったです」。




(Photo: Gilbert Trejo)



そしてついに反逆者仲間であるHenri Cash(ヘンリー・キャッシュ)を誘いStarcrawlerを結成。クラブシーンを制覇し始めた頃、アロウはまだ高校生だった。校内でヘンリーに近付いたのはアロウからだったが、初めての台詞は「キミカッコいいじゃん。ギターは弾く?」だったという。「自分はまだ良いパフォーマーではなかったし、ステージ上ではめちゃビビってた」とアロウは語る。Starcrawlerがレコード契約を獲得するのには時間がかかったが、天性のアロウのカリスマ性はスタートの頃から明らかだった(アロウ談:「StarcrawlerのことをIndustry Plant(インダストリー・プラント ※自然に売れたように見せかけて実は業界のバックアップを受けている / 実際にはメジャーと契約しているのにインディペンデントだということにしているアーティスト)だと思ってる人がいたら、信じて。LAではそんなの関係ない。デモ音源を送っても返信はゼロだったんだから!)。バンドはやがて地元でバズることになるわけだが、それはStarcrawlerが2015年頃のLAの他バンドとは全く違っていたからであろう。

「高校の頃に自分が行ってたライブって、悪いけど、つまらなかったんですよ。見てて退屈だったから自分でやってみたいと思うようになりました」アロウは語る。ステージ上で目立つため、アロウはCherie Currie(シェリー ・カーリー ※The Runawaysのリードボーカル)のようなコルセットやAlice Cooper(アリス・クーパー)風の拘束衣を着てステージに立ち始め、Gene Simmons(ジーン・シモンズ)がやるように偽物の血を吐いた。初期のStarcrawlerのライブは、前述した映画<Carrie>のプロムのシーンを連想させる残忍で挑戦的な見世物だった。「人の注目を浴びることをやりたかったんです。少なくとも記憶に残るもの。嫌われたとしても忘れることは出来ないから」アロウはそう説明した。「自分にとって一番怖いのは、ただ忘れ去られることなんです」。




Arrow de Wilde (2019) (Photo: Tim Mosenfelder)



やがて、忘れられない存在となったアロウとバンドメンバーはRough Trade(ラフ・トレード)と契約を結び、ロックの新しい救世主として歓迎された。GarbageのShirley Mansonは「Starcrawler、特にアロウは音楽業界で女性が置かれている規範に挑戦しているように思う」と述べている。事実Mansonは、アロウがステージ上で自信が持てるようになるようアドバイスをくれたとアロウは明かす。「彼女は私を叱咤激励してくれた人のひとりだった。『そんなに怖がるのは止めて。アナタがイケてるって私には分かるけど、そんなに観客を怖がってちゃダメ』って言ってくれた」。

最近のアロウは、もうハリウッド的な芝居がかった演出で人目を惹く必要はないと感じているという。Big Machine(ビッグマシン・レコード)でのデビューで、Starcrawlerのサウンドが、アメリカーナ(※カントリー、ルーツロック、フォーク、ゴスペル、ブルーグラスなど、アメリカの様々なアコースティックルーツ音楽スタイルの要素を取り入れた音楽ジャンル)や90年代のインディーズのテイストを取り入れて進化したからだ。「もう血はやってないんですよ。飽きちゃったし、わざとらしくなっちゃってるし。ラスベガスのアトラクションに転向したいわけでもないですから」アロウは語る。しかし最近のロック復活の渦中において、Starcrawlerの時代は間違いなく到来しているようだし、ロックの復活をリードしているとも言えるだろう。今やStarcrawlerのやっていることは、ノーマル(!)と見なされてさえいるかのようだ。



Starcrawler - "She Said"



「高校生の頃、…って2017年卒業だから、そんな昔のことじゃないですけど、ロックが好きな人なんてマジでひとりもいなかったんです。今はまたロックを聴くのが普通のことになったって感じるけど、長い間ロックは親世代の音楽だと思われてて、普通キッズ達って親が聴いてる音楽なんて聴かないですよね」アロウは語る(アロウの血筋を考えると間違いなく皮肉なコメントであるが)。「だけどロックは、キッズ達も共感できるような新しいフレッシュな感じで復活しつつあるって感じるし、キッズ達もそのうち古いものを評価するようになるんだろうなって思います」。


※本インタビューの一部は、Starcrawlerが出演したSiriusXMの番組「Volume West」から抜粋している。SiriusXMのアプリでインタビューのフル音源が聴取可能。


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