ついにFontaines D.C.のカルロスが来日する。フジロックRed Marqueeのカルロス側最前エリアは、例のブートレグ風味の公式Tシャツを着たファンで溢れかえることであろう。― 思えば2023年豪州・ニュージーランド・日本ツアーへのカルロス不参加の発表はショックだった。2022年のフジロック出演キャンセル後、待望の初来日だったのにカルロスが来ない。しかもその発表はツアー初日(クライストチャーチ)の前日(2023年1月26日)とかなり急だった。
が、本人のInstagramに上がった抱っこ紐着用のカルロスを見て「なんも言えねぇ~!」となったのもまだ記憶に新しい。結局、女児誕生は2023年2月14日で、日本ツアー初日の大阪公演(2月17日)直前だった。1才になるまで顔出しNGだった女児も、最近ではパパとお揃いのジャージ(今はトラックスーツと呼ぶらしい)姿で2ショットを披露してくれたりとカルロスもすっかり父親の顔である。フランス人パートナー・Joséphine de la Baume(ジョセフィーヌ・ドゥ・ラ・ボーム)が「Glad I could clone you(あなたをクローンできて良かった)」と投稿していたのが面白かった。
ちなみに女優、モデル、ミュージシャンの肩書を持つジョセフィーヌとカルロスを結びつけたのはやはり音楽だったようである。当時(2020年)パリに住んでいたカルロスが、ジョセフィーヌが弟と組んでいるバンドFilm Noir(フィルム・ノアール)のライブを観に行って意気投合、カルロスの選曲でLee Hazlewood(リー・ヘイズルウッド)の「For A Day Like Today」のカバーをレコーディングしたという。なお、カルロスのパートナー(10才位年上らしい)については、Childhood(チャイルドフッド)のBen Romans-Hopcraft(ベン・ロマンス・ホップクラフト)とのつながりに始まり、婚姻歴や家柄に至るまでいろいろ興味深い情報がWeb上に上がっているが、ここでは省略しておく。
スペイン人の父とアイルランド人の母の間に生まれ、18才でBIMMダブリン校に入学するまでマドリードで過ごしたカルロス。今回選んだインタビューは、アムステルダム拠点のエッジの効いたファッション&アート誌「Glamcult」からのもので、前文に「音楽とファッションは表裏一体」とあるとおり、音楽とスタイルの関連性に切り込んだ内容となっている。個人的に、最近のカルロスのファッションスタイルへのこだわりはジョセフィーヌの影響が大きいのではと思っているが、ヒップホップに傾倒するカルロスのギターバンドに対するコメントは衝撃的である。
【元ネタ英語記事】Music and style: Carlos lays out the blueprint(Glamcult 2024年2月8日)
以下、当ブログによる翻訳(前文省略)
初めてギターを手にしたのはいつですか?
6才くらいのとき、ゴッドマザー(※代母。キリスト教の宗派カトリックで洗礼式に立ち会い名前を与え、霊魂上の親として保護する役割を担う)が小さなクラシックギターを買ってくれた。で、まず自分がやったのがサッカーのシールを貼りまくること。そしたら皆んな「台無しにして!クラシックギターなんだからシールだらけにするもんじゃない」ってなってさ(笑)クラシックのレッスンを何回か受けたけどあまり楽しめなかった。ちょっと退屈だったよね。
それから何が変わりましたか?
そのレッスンを止めてから、またギターを手にしたのが10才か11才のとき。親を説得してエレキギターを買ってもらった。それから音楽にのめり込んで従兄から沢山曲を教わった。
不幸にも、その従兄は僕が13才のとき、23才で亡くなってしまって、そのせいで音楽に閉じこもるようになった。従兄に話し掛ける術として曲を作ってたら、何もかもが変わっていった。従兄がいなきゃ今の自分はなかったと思えるし、従兄はその一部として存在してる…て、素敵なことだけどエモーショナルでもあるよね。
それによって自分と音楽との精神的なつながりが深まったと思いますか?
絶対そう。精神的なつながりとか、音楽を通じて人とどうつながっていくのかとか。そういうのは、これからもずっと自分の中にあると思う。従兄が生きてて今の自分を全部見ててくれたら…とも思うけど、従兄が生きてたら見てもらいたいような今の自分はないわけだから、不思議だよね。そういう意味では、従兄と一緒にやってるような感覚はあるね。踏み台にしたとかじゃなくて。
それは素敵なことですね。たとえその人がそばにいなくても、音楽に人を結びつける力があることの証にもなりますし。Fontaines D.C.の煌びやかな成長を振り返ってどう感じますか?
変な感じもするけど、認められた感があるし自分としては落ち着ている。もう娘とか、自分の家族だっているし。
お父さんになられたそうですね。おめでとうございます!
ありがとう。とても素晴らしいよ。よく一緒に音楽を聴くんだけど、あの娘はヒップホップの大ファンでさ、彼女が生まれてからヒップホップに詳しくなったし、その価値もよ~く分かった。
娘さんのお気に入りは?
Wu-Tang Clan(ウータン・クラン)とかA Tribe Called Quest(ア・トライブ・コールド・クエスト)とか古めのが好きみたいだね。ああいう感じの、グルーブが続いて踊りたくなるようなやつ。
ノリ方を知ってるってことですよね。最もインスピレーションを受けたのはどんなことですか?
月並みかもしれないけど、何事にも一生懸命取り組むことかな。それが自分達に出来るベストな生き方だと思うし、必ずしもそんな風に生きられないことに罪悪感があったりもする。見て見ぬふりをしたり、スマホの画面を見てる方が気が楽だけど、そんな生き方じゃダメだ。そういうことをかつてないほど大事だと感じてる。自分の生き方があの娘の生き方のテンプレ(手本)になるわけだから。
今の世の中、存在感があるって重要ですよね。
だね。あと世の中がどんな風に回ってるのか、ひどい状況を理解して情報を知っておくのも重要。今、世の中の成り立ちに怒りまくってるところだけどね。僕らは音楽を演って進むべき方向を示すしかないから、最近「Ceasefire(停戦)」っていうプロジェクトでYoung Fathers(ヤング・ファーザーズ)やMassive Attack(マッシヴ・アタック)とコラボしたよ。ガザへの支援で25万くらい(※通貨不明。ユーロなら約4千万円+(1ユーロ=170円で換算))寄付金を集めたよ。
すごいですね!
皆んなも生活していく中で自分の持つエネルギーをポジティブな行動に移すべき。どんな政府も僕がどう曲を作るか、その方法を変えさせたりは出来ない。政府の影響で家賃が上がって苦しまされるっていうのならあり得るけど、僕にとって重要なのは、政府が家賃の額を決めたりは出来ないってこと。
ホントその通りですね。それって体制や政治家が僕らに何を優先させたいかじゃなくて、僕らが何を優先したいかって話ですよね。
そういうこと。
公私ともにそのファッションスタイルが有名ですが、音楽とファッションの関係についてどう捉えているか教えてもらえますか?
その二つの関係はとても重要だと思う。ヒップホップにハマったとき、自分のスタイルのセンスが一変した。ヒップホップとスタイルには密接な関係があるし、その影響はよく知られてるよね。今の自分にとって最大のインスピレーションはギターミュージック以外のアーティストだね。彼らって表現についてより深く理解してるし、どう見られるか、何を発言するか怖がったりしない。最近のギターバンドって大体ビビっててあからさまに腰が低いだろ。ちょっと情けない感じがするし中道的になってしまってる。で、何の信念もないから誰かの食い物にされるまでずっと同じことをしている。ロックンロールミュージックは、この中道的なメンタリティーの被害者だよな。ヒップホップグループが何年も「ファック・ザ・ポリス」とか言ってるのに、ギターバンドの奴らはライブを中断して、仕事してくれてるセキュリティーの皆さんに感謝しようとか嘘くさいし、そういうバンドって自分たちの方が警備のヤツらとかより上だと思ってるんだぜ。
ロックミュージックがアナーキーで真の表現者だった歴史を考えると残念ではありますよね。
だろ。自分的にはああいう輝きをもうちょい復活させたいんだよ。誰かがSex Pistols(セックス・ピストルズ)の曲に出会ったときみたいな。で、父親の中古のリーバイスをゲットして穴を開けたりして、何かの(ムーブメントの)一部になった気になったりとか。
ファッションって大衆を引き付けるパワフルな表現の形を提供するっていう重要な役割を果たしてますよね。
間違いないね。自分はKendrick Lamar(ケンドリック・ラマ―)の大ファンなんだけど、Kendrickの「いばらの冠」はホワイトダイヤモンドで覆われてて、いろんな解釈ができる。でも自分をイエス・キリストみたいな救世主に見立てて、あのレベルの宝石を身に着けるのって考えさせられるよね。彼は「いばらの冠」を身に着けて、普通は屈辱的とされるものを誰もが欲しがるものにしてのけた。身に着けたものを通してKendrickが生み出したものはそうとう深いよね。
今ハマってるブランドやデザイナーはありますか?
ちょっと前はGucci(グッチ)がやってることを面白がってた。凡人には分かりにくいブランドをマニア向けに発信…!みたいな。ストリートファッションがウザい奴らから解放されたのも良かったよな(笑)アイルランドのパブでの話なんだけど「トラックスーツ禁止」って貼ってあってさ。自分は全身Adidas(アディダス)のトラックスーツを着てたんだけど「知るかよ」って入って席に座ってやった。どんなアイテムを着てるかで客を選ぶとか何で出来るわけ?スーツ着てるヤツが店に来たとして、そいつは大バカ野郎かもしれないし、それと同じでトラックスーツのヤツが来ても、そいつだってバカかもしれないだろ。
そうですね。服装で人を決めつけるのは良くないですよね。
だからそういう思考回路をなくすのが大事なんだよ。僕らのバンドだっていろいろだよ。ストリートファッションもスーツ着るのも両方いいと思うぜ。
ストリートファッションは誰でも着こなせるのがいいですよね。アーティストにとっては、あのヴァイブスを自分のルックスと調和させられるのも大きいと思います。特に観客が若めの場合には。
全くそのとおり。前作「Skinty Fia」のアートディレクションをやったとき、ヒップホップを聴きまくってたんだけど、ギターバンドっぽくないジャケットにしたくてさ。っていうのも…引かないでほしいし、言うのは気が引けるんだけど…バンドやってる知り合いが読んでないことを祈るし気を悪くしないといいんだけど…今のギターミュージックってめちゃイケてないと思う。自分が子供でアレに囲まれて育ったら、だいぶ苦手になるだろうね。
そうですね。あと何か変わったことをしようとしてるバンドにとって、アルゴリズムに合わせてるその他大勢のギターバンドと一緒にされないようにするのは、なかなか大変でしょうね(笑)
100%そう。ヒップホップがなんであんなに人気なのかよく分かるんだ。ヒップホップは自分の世界のすべてになって、それで飯を食っていけるんだから。今ギターミュージックで飯を食うのはキツいし、それはバンドやレーベルのせいっていうのもちょっとあると思う。ヒップホップの世界から学ぶべきものはあるよね。
この例えは合ってると思ってるんだけど…もし展覧会を見に行って美術館がイケてなかったら、中の展示まで見ないで帰っちゃうだろ。だから美術館もアートの一部である必要があって、アートの延長線上になきゃいけない。
スタイルに当たるのが建物で、中で音楽を聴かせるインフラなんだよ。
「Skinty Fia」のスタイルは、どう音楽の延長線上にあるのでしょうか?
まずアルバムのジャケットを形にすることから始めた。あの赤と黄色…。それからその色を使って飾り付けていった。
世界観の構築ですね。
そう!自分はバンドが創り上げた世界を生きたいと思ってる。ヘッドフォンを付けてるときだけじゃなくて常にその世界にいたいんだ。それってとても重要なことだし、人にインパクトを与えるっていうのはそういうことだと思う。例えば、あんな風にパンクミュージックが生まれたのは、あの見た目のせいなわけで、あのスタイルが、連中がその一部になれる世界とか仲間を創り出したのさ。
カルロス、一緒に話せてとても楽しかったです。Fontaines D.C.がインストールする次の世界を見るのを楽しみにしています。