19 September 2024

Tramhaus(トラムハウス) | Micha Zaatインタビュー


ロッテルダムのポストパンクバンド・Tramhaus(トラムハウス)のデビューアルバム「The First Exit」がついに9月20日リリースされる。直近ではBBC Radio 6 MusicのSteve Lamacq(スティーヴ・ラマック)、Radio XのJohn Kennedy(ジョン・ケネディー)の番組で「Ffleur Hari」がオンエア、既にUKメディア・The Quitusにインタビュー記事(4月23日)が掲載される等、国外での滑り出しも上々だ。

新人ながら自国オランダやフランスで確固たるファンダムを誇る彼らは、10月から欧州&UKアルバムリリースツアーに出発するが、当然次に狙うのは(日本を含む!)世界進出となるだろう。その際、最難関となり得るのがアメリカツアーだ。ご存じの通り、バンドがアメリカツアーするのに必要なPー1Bビザの申請費用は2024年4月1日から爆上がりしており、「国際的に認められたグループ」であることを示す書類等の提出も必要になる。Tramhausの場合、ESNS 2024(Eurosonicフェスティバル)のMME(Music Moves Europe)アワードのオランダ代表にノミネートされた経歴が大きいとは思うが、やはり英語圏での高評価の証しも欲しいところ…。

そこで「持ってる男」ギタリスト・Micha(ミシャ)の登場である。彼は「ある特別な裏技(?)」でアメリカに行くことなくシアトルの有名ラジオ局KEXPのDJ・Kevin Cole(ケビン・コール)とコネクションを作ったのである。詳しい話はMichaが(たぶんメールで)回答した下記インタビューを読んでほしいのだが、非英語圏のニューカマーにとってKEXPで2度もオンエアしてもらえたことは大きな意味を持つはずだ。

ファンとしては近い将来、Kevin ColeのホストでTramhausがKEXPでプレイする姿を見てみたい。同郷のIguana Death Cult(イグアナ・デス・カルト)先輩が昨年USツアーに絡めてKEXPライブに出演済みだから、きっとTramhausも!…と思いたいが、実はイグアナ先輩はアメリカのレーベル所属なのである。

来日直前日本語インタビューで、海外に軸足を移す方策を取る同胞にほろ苦い気持ちを覚えつつ「地元ロッテルダムのシーンにもっと誇りを持ちたい」と語っていたTramhaus。世界を狙えるポジションに位置する彼らの今後の展開から目が離せない。

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【元ネタ記事】Start Listening To: Tramhaus (Still Listening 2024年5月28日)


以下、当ブログによる翻訳(インタビュー回答者:Micha(Gt.))


Tramhausの音楽をよく知らない人に、バンドが誰で、どこ出身で、どんな音楽をやっているのか教えてもらえますか?

僕らはロッテルダム出身の5人組インディーロック/ポストパンク/ノイズロックのバンドで、名前はLukas(ルカス/Vo.)、Nadya(ナジャ/Gt.)、Julia(ジュリア/Ba.)、Jim(ジム/Drs.)、Micha(ミシャ/Gt.)。激しいけど踊れる曲、暴れて爆発してるみたいだけど、いろんな形の愛や人生を祝福する音楽を作ってる。メンバーは皆んなそれぞれ、ちょっと違ったジャンルを聴いてるから、バンドのサウンド的には結構振れ幅があるかも。

デビューアルバム「The First Exit」のリリース、おめでとうございます!アルバムのタイトルに込められたインスピレーション、バンドにとってそれが何を意味するか教えてもらえますか?

Lukas(Vo.)がこのタイトルを思いついたんだけど、数年前、彼がゲイだとカミングアウトしたことを言ってるんだ。リリック的には、それがアルバム全体のテーマになってる(※別インタビューでLukasは「ストレートの世界でゲイとして育った若者のことを歌っている。意図的ではなかったが書き始めたらそうなった」と語っている)。僕にとってサウンド的には、閉塞感とか、常に一番近い出口はどこか探してるようなちょっと不安で落ち着かない感じを意味していて、その感覚をギタープレイに取り込むようにした。緊張と解放みたいなね。

ニューシングル「Once Again」はKEXPで初公開されました。あんな有名なプラットフォームで曲が紹介されるのってどんな感じでしたか?

この話にはちょっとした前フリがあって、1年くらい前にアゾレス諸島(※ポルトガル領。大西洋に浮かぶ9つの島で構成され、フェスは最大のサンミゲル島で開催)のTremor(トレモア)フェスティバルに出演(※2023年3月29日)したんだけど、ホテルがサウナ付きで僕とサウンドテックのElmo(エルモ)で朝、行ってみることにしたんだ。そしたらKEXPのKevin Cole(ケビン・コール)も同じことを考えてたみたいで、蒸し暑いサウナの中で結構長く話をすることになったんだ。僕らのファンだと言ってくれたんだけど、サウナでのランデブーの後、KEXPでもっとオンエアするって約束してくれた。そう、だからKEXPでのプレミア公開はとても有難いし光栄に思ってる。サウナがあってマジ感謝だね。


【補足】 

2023年3月29日+ サウナでKevin Coleと偶然知り合う

2023年4月19日 "Make It Happen"がKEXPのSong of the Day

2024年5月24日 "Once Again"がKevin DJのKEXP「Drive Time」でオンエア

「Song of the Day」に選ばれた際の地元ロッテルダムのメディア記事によると、Kevin Coleはライブ会場が混雑し過ぎていてTramhausのステージを見逃していたが、その後サウナでMichaと遭遇。最初Michaは彼と気付かず話していたとのこと(Lukas談)。なお、Kevin ColeはTramhausがノミネートされた2024年MME(Music Moves Europe)アワードの審査員としても名を連ねていた。

Source: Open Rotterdam (2023年4月19日) 

 

「Once Again」のMVは、ロックダウン中のタイトルもないYouTube動画がランダムに使われているユニークなものでした。このコンセプトの着想はどこから?

このアイディアは、以前から何度も組んでるビデオアーティスト、Peter Marcus(ピーター・マーカス)(※「I Don't Sweat」「The Goat」「Minus Twenty」のMVも担当)の閃きから生まれたものなんだ。このミュージックビデオは、僕らが生きるデジタル時代の不条理を物語ってる。何でもかんでもキャプチャされ、何百万もの知らない人達に見られる可能性がある時代。このアイディアに僕らはすごく魅かれた。このMV自体に特に美的な価値やリアルな物語性はないから、映像から何を生み出すかは全部視聴者任せ。その辺にあるものを何でも使って自分だけのストーリーをクリエイトする、その人の生まれ持った才能にかかってるってわけ。




「The First Exit」のトラックリストのタイトルには「Semiotics」や「Ffleur Hari」のように面白いものがあります。これらの曲にまつわるテーマやストーリーについて少し教えてもらえますか?

えっと、「Fleurr Hari」っていうのはLukasが急ぎで曲の構成を書いてた時に浮かんだ実在しない言葉で、メンバーが気に入ってそのまま使うことにした。有名なボクシングのチャンピオン、Badr Hari(バダ・ハリ ※オランダ出身のキックボクサー)の親戚のことかもしれないし、そうじゃないかもしれない。「Semiotics(※記号論)」はLukasの性的な逸脱についての曲だから、それは置いておくことにしよう。





ヨーロッパ、日本、アメリカと世界中をツアーしてますよね。ツアーでの忘れられないエピソードは何かありますか?

沢山あるな…。日本は本当に何か違ってて他のどの観客とも比べものにならない。日本の人って曲を気に入ってくれたら、ホント大好きになってくれる。で、僕らの方も大好きになっちゃった。あの国で経験したホスピタリティーとか謙虚さとか…。ここ数ヶ月ツアーが集中してたけど、おかげで家族のように成長できたかな。

SXSW(アメリカ)、Best Kept Secret(オランダ)、Sziget Festival(シゲト・フェスティバル/ハンガリー)等メジャーな音楽フェスに出演されてますよね。これまでで最も印象に残っているフェスは何ですか?

ヨーロッパのいろんな大規模フェスに出演するのは、知り合いのミュージシャン達と楽屋(かなりゴージャスな場合が多い)で再会できるのが嬉しいよね。数ヶ月の海外ツアーを終えて里帰りするみたいな気分。ずっとバンドメンバーとしか過ごしてなかったわけだから。「また1年生き延びられた、共に祝おうぜ」みたいな。

次回のツアーは28公演10ヶ国だそうですが、大体的なツアーに向けてどんな準備をするのでしょう?最も楽しみなことは何ですか?

あらかじめ十分な数の下着を買っておくこと。一番楽しみにしてるのは、自分が今やってるのが本当に特別なことだと実感する、ふとした瞬間を味わうこと。

2021年の結成以来、シングル数枚とEP1枚をリリースされています。初期のリリースから今度のデビューアルバムまで、バンドはどのように進化してきましたか?

ロックダウンの最中にバンドを始めた頃は、単に退屈してて怒りのパンク音楽を作りたかっただけだけど、バンドはもっと内省的で物事を深く考えるスタイルに移行してきてる。相変わらずサウンドは威嚇的で危険だけど、それだけじゃなく、より考え抜かれた音になってる。バンドとしてはもうちょっと実験してみたいかな。自分達とバンドの限界を試してみたい。

今、気に入ってるのは何ですか?

ケンドリック・ラマ―とドレイクのビーフ(※対立・抗争)。

今、嫌いなのは?

ケンドリック・ラマ―とドレイクのビーフ。

子供の頃から聴いてるアルバムを1枚挙げて、それが今も大切な理由を教えて下さい。

The Strokes(ザ・ストロークス)の「Is This It」。10才位の時、CDをゲットして何週間も聴くのを止められなかった。今でもヤラれてるよ。シンプルで真っすぐなところが良くてアルバム全曲が最高。シンプルな時代を思い出させてくれる。

リスナーには「The First Exit」やTramhausの楽曲全般からどんなメッセージやフィーリングを受け取ってほしいですか?

たくさんのことを感じてほしい。何かその人の感情が搔き立てられるなら、どんな感情かはあまり気にしない。無感覚に消費される業界の製品を押し付けられる時代、僕らのアルバムが気に入ってもらえなかったとしても、その人に無表情でいられるより、その方が僕は納得できると思う。


Micha Zaat(右端)


Tramhaus

■ HP: https://tramhaus.com/

■ X(旧Twitter): https://twitter.com/TRAMHAUSrtm

■ Instagram: https://www.instagram.com/tramhaus.rtm

■ Bandcamp: https://tramhaus.bandcamp.com/


25 July 2024

【祝初来日】Carlos O'Connell(カルロス・オコネル)インタビュー | Fontaines D.C.(フォンテインズD.C.)

 

Photo: Tom Atkin


ついにFontaines D.C.のカルロスが来日する。フジロックRed Marqueeのカルロス側最前エリアは、例のブートレグ風味の公式Tシャツを着たファンで溢れかえることであろう。― 思えば2023年豪州・ニュージーランド・日本ツアーへのカルロス不参加の発表はショックだった。2022年のフジロック出演キャンセル後、待望の初来日だったのにカルロスが来ない。しかもその発表はツアー初日(クライストチャーチ)の前日(2023年1月26日)とかなり急だった。

が、本人のInstagramに上がった抱っこ紐着用のカルロスを見て「なんも言えねぇ~!」となったのもまだ記憶に新しい。結局、女児誕生は2023年2月14日で、日本ツアー初日の大阪公演(2月17日)直前だった。1才になるまで顔出しNGだった女児も、最近ではパパとお揃いのジャージ(今はトラックスーツと呼ぶらしい)姿で2ショットを披露してくれたりとカルロスもすっかり父親の顔である。フランス人パートナー・Joséphine de la Baume(ジョセフィーヌ・ドゥ・ラ・ボーム)が「Glad I could clone you(あなたをクローンできて良かった)」と投稿していたのが面白かった。

ちなみに女優、モデル、ミュージシャンの肩書を持つジョセフィーヌとカルロスを結びつけたのはやはり音楽だったようである。当時(2020年)パリに住んでいたカルロスが、ジョセフィーヌが弟と組んでいるバンドFilm Noir(フィルム・ノアール)のライブを観に行って意気投合、カルロスの選曲でLee Hazlewood(リー・ヘイズルウッド)の「For A Day Like Today」のカバーレコーディングしたという。なお、カルロスのパートナー(10才位年上らしい)については、Childhood(チャイルドフッド)のBen Romans-Hopcraft(ベン・ロマンス・ホップクラフト)とのつながりに始まり、婚姻歴や家柄に至るまでいろいろ興味深い情報がWeb上に上がっているが、ここでは省略しておく。

スペイン人の父とアイルランド人の母の間に生まれ、18才でBIMMダブリン校に入学するまでマドリードで過ごしたカルロス。今回選んだインタビューは、アムステルダム拠点のエッジの効いたファッション&アート誌「Glamcult」からのもので、前文に「音楽とファッションは表裏一体」とあるとおり、音楽とスタイルの関連性に切り込んだ内容となっている。個人的に、最近のカルロスのファッションスタイルへのこだわりはジョセフィーヌの影響が大きいのではと思っているが、ヒップホップに傾倒するカルロスのギターバンドに対するコメントは衝撃的である。

【元ネタ英語記事】Music and style: Carlos lays out the blueprint(Glamcult 2024年2月8日)


以下、当ブログによる翻訳(前文省略)


初めてギターを手にしたのはいつですか?

6才くらいのとき、ゴッドマザー(※代母。キリスト教の宗派カトリックで洗礼式に立ち会い名前を与え、霊魂上の親として保護する役割を担う)が小さなクラシックギターを買ってくれた。で、まず自分がやったのがサッカーのシールを貼りまくること。そしたら皆んな「台無しにして!クラシックギターなんだからシールだらけにするもんじゃない」ってなってさ(笑)クラシックのレッスンを何回か受けたけどあまり楽しめなかった。ちょっと退屈だったよね。

それから何が変わりましたか?

そのレッスンを止めてから、またギターを手にしたのが10才か11才のとき。親を説得してエレキギターを買ってもらった。それから音楽にのめり込んで従兄から沢山曲を教わった。

不幸にも、その従兄は僕が13才のとき、23才で亡くなってしまって、そのせいで音楽に閉じこもるようになった。従兄に話し掛ける術として曲を作ってたら、何もかもが変わっていった。従兄がいなきゃ今の自分はなかったと思えるし、従兄はその一部として存在してる…て、素敵なことだけどエモーショナルでもあるよね。

それによって自分と音楽との精神的なつながりが深まったと思いますか?

絶対そう。精神的なつながりとか、音楽を通じて人とどうつながっていくのかとか。そういうのは、これからもずっと自分の中にあると思う。従兄が生きてて今の自分を全部見ててくれたら…とも思うけど、従兄が生きてたら見てもらいたいような今の自分はないわけだから、不思議だよね。そういう意味では、従兄と一緒にやってるような感覚はあるね。踏み台にしたとかじゃなくて。

それは素敵なことですね。たとえその人がそばにいなくても、音楽に人を結びつける力があることの証にもなりますし。Fontaines D.C.の煌びやかな成長を振り返ってどう感じますか?

変な感じもするけど、認められた感があるし自分としては落ち着ている。もう娘とか、自分の家族だっているし。

お父さんになられたそうですね。おめでとうございます!

ありがとう。とても素晴らしいよ。よく一緒に音楽を聴くんだけど、あの娘はヒップホップの大ファンでさ、彼女が生まれてからヒップホップに詳しくなったし、その価値もよ~く分かった。

娘さんのお気に入りは?

Wu-Tang Clan(ウータン・クラン)とかA Tribe Called Quest(ア・トライブ・コールド・クエスト)とか古めのが好きみたいだね。ああいう感じの、グルーブが続いて踊りたくなるようなやつ。

ノリ方を知ってるってことですよね。最もインスピレーションを受けたのはどんなことですか?

月並みかもしれないけど、何事にも一生懸命取り組むことかな。それが自分達に出来るベストな生き方だと思うし、必ずしもそんな風に生きられないことに罪悪感があったりもする。見て見ぬふりをしたり、スマホの画面を見てる方が気が楽だけど、そんな生き方じゃダメだ。そういうことをかつてないほど大事だと感じてる。自分の生き方があの娘の生き方のテンプレ(手本)になるわけだから。

今の世の中、存在感があるって重要ですよね。

だね。あと世の中がどんな風に回ってるのか、ひどい状況を理解して情報を知っておくのも重要。今、世の中の成り立ちに怒りまくってるところだけどね。僕らは音楽を演って進むべき方向を示すしかないから、最近「Ceasefire(停戦)」っていうプロジェクトでYoung Fathers(ヤング・ファーザーズ)やMassive Attack(マッシヴ・アタック)とコラボしたよ。ガザへの支援で25万くらい(※通貨不明。ユーロなら約4千万円+(1ユーロ=170円で換算))寄付金を集めたよ。

すごいですね!

皆んなも生活していく中で自分の持つエネルギーをポジティブな行動に移すべき。どんな政府も僕がどう曲を作るか、その方法を変えさせたりは出来ない。政府の影響で家賃が上がって苦しまされるっていうのならあり得るけど、僕にとって重要なのは、政府が家賃の額を決めたりは出来ないってこと。

ホントその通りですね。それって体制や政治家が僕らに何を優先させたいかじゃなくて、僕らが何を優先したいかって話ですよね。

そういうこと。

公私ともにそのファッションスタイルが有名ですが、音楽とファッションの関係についてどう捉えているか教えてもらえますか?

その二つの関係はとても重要だと思う。ヒップホップにハマったとき、自分のスタイルのセンスが一変した。ヒップホップとスタイルには密接な関係があるし、その影響はよく知られてるよね。今の自分にとって最大のインスピレーションはギターミュージック以外のアーティストだね。彼らって表現についてより深く理解してるし、どう見られるか、何を発言するか怖がったりしない。最近のギターバンドって大体ビビっててあからさまに腰が低いだろ。ちょっと情けない感じがするし中道的になってしまってる。で、何の信念もないから誰かの食い物にされるまでずっと同じことをしている。ロックンロールミュージックは、この中道的なメンタリティーの被害者だよな。ヒップホップグループが何年も「ファック・ザ・ポリス」とか言ってるのに、ギターバンドの奴らはライブを中断して、仕事してくれてるセキュリティーの皆さんに感謝しようとか嘘くさいし、そういうバンドって自分たちの方が警備のヤツらとかより上だと思ってるんだぜ。

ロックミュージックがアナーキーで真の表現者だった歴史を考えると残念ではありますよね。

だろ。自分的にはああいう輝きをもうちょい復活させたいんだよ。誰かがSex Pistols(セックス・ピストルズ)の曲に出会ったときみたいな。で、父親の中古のリーバイスをゲットして穴を開けたりして、何かの(ムーブメントの)一部になった気になったりとか。

ファッションって大衆を引き付けるパワフルな表現の形を提供するっていう重要な役割を果たしてますよね。

間違いないね。自分はKendrick Lamar(ケンドリック・ラマ―)の大ファンなんだけど、Kendrickの「いばらの冠」はホワイトダイヤモンドで覆われてて、いろんな解釈ができる。でも自分をイエス・キリストみたいな救世主に見立てて、あのレベルの宝石を身に着けるのって考えさせられるよね。彼は「いばらの冠」を身に着けて、普通は屈辱的とされるものを誰もが欲しがるものにしてのけた。身に着けたものを通してKendrickが生み出したものはそうとう深いよね。



Photo: Tom Atkin


今ハマってるブランドやデザイナーはありますか?

ちょっと前はGucci(グッチ)がやってることを面白がってた。凡人には分かりにくいブランドをマニア向けに発信…!みたいな。ストリートファッションがウザい奴らから解放されたのも良かったよな(笑)アイルランドのパブでの話なんだけど「トラックスーツ禁止」って貼ってあってさ。自分は全身Adidas(アディダス)のトラックスーツを着てたんだけど「知るかよ」って入って席に座ってやった。どんなアイテムを着てるかで客を選ぶとか何で出来るわけ?スーツ着てるヤツが店に来たとして、そいつは大バカ野郎かもしれないし、それと同じでトラックスーツのヤツが来ても、そいつだってバカかもしれないだろ。

そうですね。服装で人を決めつけるのは良くないですよね。

だからそういう思考回路をなくすのが大事なんだよ。僕らのバンドだっていろいろだよ。ストリートファッションもスーツ着るのも両方いいと思うぜ。

ストリートファッションは誰でも着こなせるのがいいですよね。アーティストにとっては、あのヴァイブスを自分のルックスと調和させられるのも大きいと思います。特に観客が若めの場合には。

全くそのとおり。前作「Skinty Fia」のアートディレクションをやったとき、ヒップホップを聴きまくってたんだけど、ギターバンドっぽくないジャケットにしたくてさ。っていうのも…引かないでほしいし、言うのは気が引けるんだけど…バンドやってる知り合いが読んでないことを祈るし気を悪くしないといいんだけど…今のギターミュージックってめちゃイケてないと思う。自分が子供でアレに囲まれて育ったら、だいぶ苦手になるだろうね。

そうですね。あと何か変わったことをしようとしてるバンドにとって、アルゴリズムに合わせてるその他大勢のギターバンドと一緒にされないようにするのは、なかなか大変でしょうね(笑)

100%そう。ヒップホップがなんであんなに人気なのかよく分かるんだ。ヒップホップは自分の世界のすべてになって、それで飯を食っていけるんだから。今ギターミュージックで飯を食うのはキツいし、それはバンドやレーベルのせいっていうのもちょっとあると思う。ヒップホップの世界から学ぶべきものはあるよね。

この例えは合ってると思ってるんだけど…もし展覧会を見に行って美術館がイケてなかったら、中の展示まで見ないで帰っちゃうだろ。だから美術館もアートの一部である必要があって、アートの延長線上になきゃいけない。

スタイルに当たるのが建物で、中で音楽を聴かせるインフラなんだよ。

「Skinty Fia」のスタイルは、どう音楽の延長線上にあるのでしょうか?

まずアルバムのジャケットを形にすることから始めた。あの赤と黄色…。それからその色を使って飾り付けていった。

世界観の構築ですね。

そう!自分はバンドが創り上げた世界を生きたいと思ってる。ヘッドフォンを付けてるときだけじゃなくて常にその世界にいたいんだ。それってとても重要なことだし、人にインパクトを与えるっていうのはそういうことだと思う。例えば、あんな風にパンクミュージックが生まれたのは、あの見た目のせいなわけで、あのスタイルが、連中がその一部になれる世界とか仲間を創り出したのさ。

カルロス、一緒に話せてとても楽しかったです。Fontaines D.C.がインストールする次の世界を見るのを楽しみにしています。


14 May 2024

Tramhaus(トラムハウス)| ニューシングル「Beech」について語る

Photo: Elmo Taihitu


Tramhaus(トラムハウス)を初めて観たのは2023年11月14日、下北沢Basement Barのジャパン・ツアー最終日だった。当時、日本で無名だったTramhausがSNSの口コミで徐々に盛り上がりを見せ、ほぼフルハウスで最終日を迎えられたのは、まさにDIY精神の体現であり、近い将来あの場にいたことを誇れる"I was there"案件となったのはまず間違いがない。

あの段階で奇跡の初来日が実現したのには、いくつかのマジックの連鎖があった。TramhausがMusic Moves Europe Awards 2024のオランダ代表になるほど自国で勢いがあること(他国代表を見ても、いわゆる"ポストパンク"で選ばれたのがレア)、2023年11月9日東京開催のライブ・ショーケースイベント(一般社団法人Independent Music Coalition JapanとDutch Music Exportが共同主催)に招聘されたこと(ドラムのJimが流暢な日本語を話せるのが理由の一つにあるはず)、来日の交通費をオランダ大使館が負担してくれるというチャンスを生かし、バンド側が原宿のBig Love Recordsに連絡を取り日本ツアーをしたい旨伝えたこと、そして何よりも、金銭的リスクを厭わずライブ公演主催の決断をしたSchool in London代表・村田タケル氏の心意気である。

自分は来日PRインタビューの翻訳ボランティアをやらせて頂いたおかげで、やたらTramhausに詳しくなってしまった。今秋待望のデビューアルバム"The First Exit"をリリースする彼らは、日本やアメリカに降り立つタイミングでアルバムからの曲を初披露しているようだが、前述の来日時にプレイしてくれたのが"Beech"と"Once Again"だった(SXSWでは"Ffleur Hari"を演奏)。「あれ?ちょっとスロー?」が第一印象だったが、その時は歌詞の内容までは分からなかった。

2024年4月23日、デビューアルバムからようやく"Beech"の配信がスタートしたタイミングでいくつかのインタビュー記事が公開された。サウンド面についての言及は今のところあまり見かけないが、彼らはいわゆる”ポストパンク・バンド”と呼ばれることに違和感を覚え始めているように感じるし、新型コロナウイルスのロックダウン中に暇を持て余したロッテルダムのシーンの実力者達が「Viagra Boys的なバンドをやろうぜ!」と集まった初期衝動から徐々に変化を遂げ、デビューアルバムにして早くも最初の脱皮(The First Exit)を図ろうとしている…ということのようにも映る。

「ロッテルダムよ、行動せよ」と歌い地元ファンダムを獲得したTramhausは、少なくともリリック的には内省的な方向に向かうようだ。今回翻訳した電話インタビューでVo.のLukasは、それがどう受け止められるかに多少の戸惑いも見せている。"Beech"の歌詞については、本ブログ記事の末尾に(あくまで自分の解釈による)抄訳を載せたので参照して頂ければと思う。そして自分は、"Beech"がLukasが若い頃(といっても来日時まだ25才だと言っていたが)通っていたバーの名前であること、アムステルダムが東京ならロッテルダムは大阪であること、英語の歌詞で歌うのはオランダでごく普通であること等を、下記インタビュー記事に登場する「あの人」から聞いた気がする。Tramhausライブの熱気冷めやらぬ、あの下北沢Basement Barのフロアで…。


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【元ネタ記事(オランダ語)】Tramhaus tapt uit nieuw vaatje op emotionele punk-tune (3voor12 2024年4月23日)

以下、当ブログによる翻訳


Tramhausの最新曲は、どこからインスピレーションを得ているのだろう? 今回はバンド初期の楽曲の多くに見られる陰鬱な世界情勢(あるいはロッテルダムの社会情勢)からではない。そう、”Beech(キャッチ―で爆発的なヴォーカルが光る超エネルギッシュなパンク・チューン)”でのTramhaus(ロッテルダム)は、全く異なるアプローチを試みたのだ。正確には、シンガー・Lukas Jansen(ルカス・ヤンセン)が抱く感情である。「ロッテルダムとか世界で起こってることだけ書いていれば、そのうち先が見えてしまう」電話越しにJansenが笑う。「ちょっと深く掘り下げて、もっと自分自身について書くときが来た。それがセラピーにもなったしね」

本ニューシングルでJansenが回想しているのは、彼がカミングアウト(*原文は斜字)する布石となった、ある人物との交際についてである。大変難しいテーマだが懐かしい思い出でもある。「とてもエモーショナルな曲。あのシチュエーションからとても美しい友情が芽生えたわけだから。つまり"Beech"に注いだ情熱は、すべてあの人への愛から生まれたってこと」


"Beech" - Tramhaus


"Beech"は、今秋発売のTramhaus待望のデビューアルバム"The First Exit"から試聴可能な最初の曲である。もう1年も前に完成済みのアルバムだ。本作では"Beech"と同じようなテーマがほぼ全曲で取り上げられており、社会批判的な曲がきっかけでファンになった人には少々受け入れ難いかもしれない。が、Jansen自身も、このように私的な楽曲を世に送り出すことにさほど興奮を覚えていない。「自分のことを書いたとてもパーソナルな曲。だからこの曲について意見があるとしたら、皆んなどんな風に思うんだろう? ちょっと興味あるよね。自分もロッテルダムのことを歌うよりエキサイティングじゃないって感じるかもしれないし、結局皆んな何か思うところがあったりするんだろうな」

"The First Exit"は9月20日リリース予定。その後、Tramhausはバンド史上最大の欧州ツアーに出発、Paradiso(*アムステルダムにある教会を改装したヴェニュー)のメインホール(*キャパ1,500人)で10月2日にライブを行う。またBest Kept Secret(*オランダの音楽フェス)にも出演予定(6月8日)。



"Beech(ブナノキ)" 歌詞抄訳

囚人と道化師

街にある

樹木と同じ名前のバー

知らぬ者同士、だから会話が始まる

心を解き放ち"誰でもないこと"を楽しんだ


Ya ya ya...

何でも揃ってる気もするけど

何か足りない

僕は、僕は...

君といると心が楽になる

そばにいて欲しい

君が必要、君が必要なんだ


胃が痛むのはいつものこと

恋に落ちる前からずっと、そこが僕の居場所

もうだいぶになる

知らぬ者同士じゃないけど、会話が始まる

ゆっくりしてくれて構わないけど

僕は行かなくちゃ、行かなくちゃならない

*歌詞を若干修正しました。