14 May 2024

Tramhaus(トラムハウス)| ニューシングル「Beech」について語る

Photo: Elmo Taihitu


Tramhaus(トラムハウス)を初めて観たのは2023年11月14日、下北沢Basement Barのジャパン・ツアー最終日だった。当時、日本で無名だったTramhausがSNSの口コミで徐々に盛り上がりを見せ、ほぼフルハウスで最終日を迎えられたのは、まさにDIY精神の体現であり、近い将来あの場にいたことを誇れる"I was there"案件となったのはまず間違いがない。

あの段階で奇跡の初来日が実現したのには、いくつかのマジックの連鎖があった。TramhausがMusic Moves Europe Awards 2024のオランダ代表になるほど自国で勢いがあること(他国代表を見ても、いわゆる"ポストパンク"で選ばれたのがレア)、2023年11月9日東京開催のライブ・ショーケースイベント(一般社団法人Independent Music Coalition JapanとDutch Music Exportが共同主催)に招聘されたこと(ドラムのJimが流暢な日本語を話せるのが理由の一つにあるはず)、来日の交通費をオランダ大使館が負担してくれるというチャンスを生かし、バンド側が原宿のBig Love Recordsに連絡を取り日本ツアーをしたい旨伝えたこと、そして何よりも、金銭的リスクを厭わずライブ公演主催の決断をしたSchool in London代表・村田タケル氏の心意気である。

自分は来日PRインタビューの翻訳ボランティアをやらせて頂いたおかげで、やたらTramhausに詳しくなってしまった。今秋待望のデビューアルバム"The First Exit"をリリースする彼らは、日本やアメリカに降り立つタイミングでアルバムからの曲を初披露しているようだが、前述の来日時にプレイしてくれたのが"Beech"と"Once Again"だった(SXSWでは"Ffleur Hari"を演奏)。「あれ?ちょっとスロー?」が第一印象だったが、その時は歌詞の内容までは分からなかった。

2024年4月23日、デビューアルバムからようやく"Beech"の配信がスタートしたタイミングでいくつかのインタビュー記事が公開された。サウンド面についての言及は今のところあまり見かけないが、彼らはいわゆる”ポストパンク・バンド”と呼ばれることに違和感を覚え始めているように感じるし、新型コロナウイルスのロックダウン中に暇を持て余したロッテルダムのシーンの実力者達が「Viagra Boys的なバンドをやろうぜ!」と集まった初期衝動から徐々に変化を遂げ、デビューアルバムにして早くも最初の脱皮(The First Exit)を図ろうとしている…ということのようにも映る。

「ロッテルダムよ、行動せよ」と歌い地元ファンダムを獲得したTramhausは、少なくともリリック的には内省的な方向に向かうようだ。今回翻訳した電話インタビューでVo.のLukasは、それがどう受け止められるかに多少の戸惑いも見せている。"Beech"の歌詞については、本ブログ記事の末尾に(あくまで自分の解釈による)抄訳を載せたので参照して頂ければと思う。そして自分は、"Beech"がLukasが若い頃(といっても来日時まだ25才だと言っていたが)通っていたバーの名前であること、アムステルダムが東京ならロッテルダムは大阪であること、英語の歌詞で歌うのはオランダでごく普通であること等を、下記インタビュー記事に登場する「あの人」から聞いた気がする。Tramhausライブの熱気冷めやらぬ、あの下北沢Basement Barのフロアで…。


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【元ネタ記事(オランダ語)】Tramhaus tapt uit nieuw vaatje op emotionele punk-tune (3voor12 2024年4月23日)

以下、当ブログによる翻訳


Tramhausの最新曲は、どこからインスピレーションを得ているのだろう? 今回はバンド初期の楽曲の多くに見られる陰鬱な世界情勢(あるいはロッテルダムの社会情勢)からではない。そう、”Beech(キャッチ―で爆発的なヴォーカルが光る超エネルギッシュなパンク・チューン)”でのTramhaus(ロッテルダム)は、全く異なるアプローチを試みたのだ。正確には、シンガー・Lukas Jansen(ルカス・ヤンセン)が抱く感情である。「ロッテルダムとか世界で起こってることだけ書いていれば、そのうち先が見えてしまう」電話越しにJansenが笑う。「ちょっと深く掘り下げて、もっと自分自身について書くときが来た。それがセラピーにもなったしね」

本ニューシングルでJansenが回想しているのは、彼がカミングアウト(*原文は斜字)する布石となった、ある人物との交際についてである。大変難しいテーマだが懐かしい思い出でもある。「とてもエモーショナルな曲。あのシチュエーションからとても美しい友情が芽生えたわけだから。つまり"Beech"に注いだ情熱は、すべてあの人への愛から生まれたってこと」


"Beech" - Tramhaus


"Beech"は、今秋発売のTramhaus待望のデビューアルバム"The First Exit"から試聴可能な最初の曲である。もう1年も前に完成済みのアルバムだ。本作では"Beech"と同じようなテーマがほぼ全曲で取り上げられており、社会批判的な曲がきっかけでファンになった人には少々受け入れ難いかもしれない。が、Jansen自身も、このように私的な楽曲を世に送り出すことにさほど興奮を覚えていない。「自分のことを書いたとてもパーソナルな曲。だからこの曲について意見があるとしたら、皆んなどんな風に思うんだろう? ちょっと興味あるよね。自分もロッテルダムのことを歌うよりエキサイティングじゃないって感じるかもしれないし、結局皆んな何か思うところがあったりするんだろうな」

"The First Exit"は9月20日リリース予定。その後、Tramhausはバンド史上最大の欧州ツアーに出発、Paradiso(*アムステルダムにある教会を改装したヴェニュー)のメインホール(*キャパ1,500人)で10月2日にライブを行う。またBest Kept Secret(*オランダの音楽フェス)にも出演予定(6月8日)。



"Beech(ブナノキ)" 歌詞抄訳

囚人と道化師

街にある

樹木と同じ名前のバー

知らぬ者同士、だから会話が始まる

心を解き放ち"誰でもないこと"を楽しんだ


Ya ya ya...

何でも揃ってる気もするけど

何か足りない

僕は、僕は...

君といると心が楽になる

そばにいて欲しい

君が必要、君が必要なんだ


胃が痛むのはいつものこと

恋に落ちる前からずっと、そこが僕の居場所

もうだいぶになる

知らぬ者同士じゃないけど、会話が始まる

ゆっくりしてくれて構わないけど

僕は行かなくちゃ、行かなくちゃならない

*歌詞を若干修正しました。