1 July 2025

【祝再来日】Tramhaus(トラムハウス)日本に関する発言まとめ

 

Photo: Marc Elisabeth


ついにロッテルダムのポストパンクバンド・Tramhaus(トラムハウス)の2度目の来日ツアーが本日7月1日福岡からスタートする。今回はあのele-kingにLukas (Vo.)のインタビュー記事が掲載され(!)、Tramhausの日本での知名度向上を願う自分としては嬉しい限りである。…というわけで、2023年11月初来日時の翻訳ボランティアをきっかけに彼らを追い続けてきた自分が読み溜めたTramhausのWeb記事の中から、取り急ぎ彼らの日本に関する発言をキュレーションしてみることにする。


■ 夢は日本でのライブ

まず前回の初来日時の主催・村田タケル氏によるインタビューで、ヴォーカルのLukasは「1年前のインタビューでバンド最大の夢は日本でプレイすることと答えた」と発言していた。そのインタビューがロックダウン中のこれである。


Lukas: 僕らは本当に日本に行きたいと思ってる。とにかくツアーに出たくて、もちろん今は無理だけど、日本は(行きたいツアー先)リストの上位にある。

Source: Heet zonder zweet: de Rotterdamse postpunkers van Tramhaus (Effenaar 2022年1月26日)

■ 日本語が話せるメンバー・Jim(Drs)

そんな彼らの夢が、デビューアルバム発売を待たず早々に実現したのは、2023年11月Dutch Music Export主催のライブ・ショーケースイベントに招聘されたのが大きかったと思う。彼らの自国オランダでの人気もさることながら、Jimの流暢な日本語力が招聘の決め手のひとつになったであろうことは想像に難くない。

実際、各国インタビュー記事のJim発言では村上春樹細野晴臣の名前が挙がる等、かなりの日本通のようである(邦楽に関しては主催の村田タケル氏より詳しいらしい)。自分は前回の来日ライブ最終日、下北沢Basement Barの前で本番用レモンサワーの買出しから帰ってきたJimと鉢合わせたのだが、顔を見て咄嗟に英語で会話した後、「てゆ~か、日本語話せるんですよね?」と話しかけたら、返ってきたJimの日本語力は本当に素晴らしいものだった(このことは自国オランダでもっと知られるべき!)。実は日本育ち…的な答えを期待しながら「何でそんなに日本語上手なの?」と質問してみたら、日本育ちのドイツ人からプライベートレッスンを受けているそうである。

Julia: ドラマーのJimは日本の大ファンで、毎年日本に行って1ヶ月くらいステイしてる。日本語のほぼバイリンガルで2時間抜けてカフェでレッスンを受けたりしてる。

Source: [INTERVIEW] Tramhaus aux portes du succès (Listenup! 2023年11月22日)

■ 一度ファンになったらとことん応援する日本人ファン

今やTramhaus研究家(?)みたいになってしまった自分にとって、ギタリスト・Michaはバンドの中で少し異色な存在である。オランダが誇るサキソフォーンプレーヤー・Benjamin Hermanのアルバムへの参加(なんと彼の苗字である「Zaat」という曲もある!)、共著ではあるがロッテルダムのライブ会場の歴史に関する本の執筆Webメディアへの寄稿等、吉本興業で言えば、又吉的な立ち位置にいると思っている(*万一、英語に自動翻訳された場合に備え補足しておくと、日本のお笑い芸人のエージェント・吉本興業に所属する又吉直樹とは、小説家でもあり、2015年名誉ある芥川賞を受賞)。有名大学卒で歴史や哲学を勉強していたが、今はポストパンクバンドのギタリストとして世界中をツアー中、という異色な経歴の持ち主である。

そんなMichaは折に触れて、日本のファンについて言及してくれるのだが、ツアーでの忘れ難いエピソードについて聞かれた際の答えがこちら(他にも課金は必要だが、オランダ語記事の見出し:日本にも熱狂的ファン「ファンになったら日本人はとことんファンになる」)。


Micha: 日本は本当に何か違っていて、他のどの国の観客とも比べ物にならない。日本の人って音楽を気に入ってくれたら、本当に大好きになってくれる。あの国で経験したホスピタリティーとか謙虚さとか、僕らの方も大好きになっちゃった。

Source: Start Listening To: Tramhaus (Still Listening 2024年5月28日)



Photo: Marc Elisabeth


■ ライブでの日本の観客の反応

個人的に最も興味深かったのは、2024年4月のThe Quietusの英語記事だった。翻訳してブログ記事にしたかったが、あのMichaが「もうこのインタビュアー以外の取材は受けたくない」とインスタで言っていたように、哲学の知識がないと訳しきれない部分が多々あり断念した経緯がある。

この英語記事によると、彼らは初めて訪れた未開の地である日本を「とてもクレイジー」で「細部にこだわる」場所だと感じたようだ(それでもSXSWで訪れたアメリカほどは異質に感じなかった…との記述もあり具体的に訊いてみたい気もする)。


Lukas: すっごく面白いと思ったのは、日本のお客さんってどうリアクションすればいいかこっちに教えてもらいたがるってこと。あるレビューで誰かが「どう振舞えばいいか知りたかったけど、どう振舞おうが関係ないって分かった」みたいなことを書いてた。日本に行って気付いたんだけど、僕がこう(動いてみせる)したら、お客さんが皆んな同じように動いてくれる。めっちゃ覚えるのが早いんだ。だから次のライブでは、よし!これを利用してやろうって思ったよ。

Jim: 日本のお笑い芸人は全員大阪出身。大阪でのライブでは皆んながシンガロングしてくれた。東京のライブはそうでもなかったけど。

Julia: ウチらがやることをマネして(ここでの)ルールは何なのか探ってる感じだった。

Jim: この曲でモッシュピットが見たいって言えば、たぶんやってくれると思うよ。

Source: One Direction: An Interview With Tramhaus (Quietus 2024年4月23日)


この辺りのコメントは初来日した海外アーティストにほぼ共通している気もする。ちなみにお馴染みの「曲間のシーン(静寂)」については特に何も言及がなかった。


■ ギタリストNadyaについて

…とここまで爆速で書いて、Tramhaus結成の張本人・Nadya姐さんが登場していないことに気付いてしまった!前回の来日時、一番長く話ができたメンバーがギタリストのNadyaだったが、それは初来日インタビュー翻訳の為の鬼リサーチで浮かんだ疑問点への答え合わせがしたかったから。

Tramhaus結成前、NadyaはJazz歌手だった少し年上のルームメートの女性とVulva(女性器の外陰部を示す学術用語)というユニットを組んでいて、ジャンルは何と書くのが正しいか質問したところ、Sludge(スラッジ)だと教えてくれた(その手の音楽に無知な自分の為にSpotifyでMelvinsの「Houdini(1993年)」を例として見せてくれた)。どちらかと言うとTramhausではボーイッシュなイメージのあるNadyaであるが、女性の中絶の権利を主張するポリティカルなユニット・Vulvaではフェミニン全開なヴィジュアルでドラムを叩く姿がとてもクールである。赤ん坊の人形を燃やし物議を醸したVulvaのミュージックビデオ「Kill The Baby」(2023年オランダ映画祭ノミネート作品)を見れば、Tramhausでの彼女のサウンド面での役割や影響力をより深く理解できるのではと思う。


最後になりましたが、フジロック出演圏内に入りつつあるTramhausを今回の来日で見届けることが出来れば、近い将来「あ、俺、福岡/大阪で見たし」と自慢できる"I was there"案件になるのはまず間違いないので、平日の労働後、疲れた身体を引きずってでも観に行くことをお勧めします。このブログをほぼ記憶だけで書けてしまうオタク全開な自分からのレコメンドです!(時間がないのであまり推敲できないままUPします)



TRAMHAUS JAPAN TOUR 2025

チケットは下記リンクから!

https://lit.link/tramhausJapantour2025

9 June 2025

Tramhaus(トラムハウス) | Julia & Jimインタビュー

Photo: Elmo Taihitu


ロッテルダムのインディーズシーンを牽引するTramhaus(トラムハウス)が日本に帰ってくる。前回の初来日から1年8ヶ月、今回はデビューアルバム「The First Exit」リリースツアーとして福岡(!)・大阪・東京の3公演となる。現在欧州ツアー真っ最中の彼らは、6月27日ベルギーのBear Rockフェスティバル出演後、休む暇もなく7月1日福岡から開始されるアジアツアーに臨む形となる。

なお、DIY精神にコミットするTramhausの来日ツアーを主催するのは、またもや個人、つまり元School in Londonの村田タケル氏である(初来日ツアーで奇跡の黒字化を達成!)。…というわけでいろんな意味でドキドキが止まらないまま、取り急ぎTramhaus最新インタビューを翻訳してみることにする。今回フランスのメディアのインタビューに答えているのは、メンバー内で1番ピアスの数が多いPUNKなベーシスト・Juliaと、流暢な日本語を話すドラマーのJim 。2人の自然体の受け答えから今現在のバンドのヴァイブスが伝わってくると思う。

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【元ネタ記事(フランス語)】INTERVIEW - Tramhaus (Goûte Mes Disques  2025年6月1日)


以下、当ブログによる翻訳(前文省略)


「The First Exit」のリリース後、インタビューの度にデビューアルバムのリリース日を聞かれなくなってホッとされたのではないでしょうか?

Jim: その質問をされなくなったのは良かったんだけど、すぐにセカンドアルバムがいつ出るか聞かれるようになっちゃった!

Julia: 少なくとも1年待って。

Jim: 今のところファンは充分満たされてるみたいだけどね。


「The First Exit」の評価が概ね良かったことで、期待に応えねばというストレスから解放されたと感じましたか?

Jim: あのアルバムには相当プレッシャーがあってめちゃビビってた。人それぞれ基準が違うから何を期待されてるのかも分からないし。プレスやファンからの反応がポジティブなのはバンドにとってとても良かった。ネガティブな反応を全く聞いたことがないとか、信じられないよね。

Julia: ホントほっとした!でも同時にセカンドアルバムにかなりプレッシャーがかかってる。


バンドが次にどうなるかかなり不安に思われてるってことですね。アーティストという存在は苦悩する運命にある?

Julia: そう、自分たちにはマゾの気質があると思う。

Jim: ちょうどこれから新曲を書き始めるところで、スゴくワクワクしてる。「The First Exit」のリリースは2024年の9月だけど、2023年の夏にはもう完成してたから、皆んなにはまだ新鮮だろうけど、バンドにとってはもう魂の一部になっちゃってる。次に進む準備は出来てるよ。


「The First Exit」の楽曲はツアーの合間の数日で書かれたそうですが、Tramhausの楽曲制作については、そういうやり方しかないのでしょうか?

Julia: 2週間きっかり。そのやり方しかないと思う!自分ら、いつもギリギリにならないとやらないから。

Jim: バンドの初期の曲はコロナのとき書いたから、リハをやる時間がたっぷりあった。ツアーをやり始めたら、すぐにごたついて、3年間で増えた曲って「Minus Twenty」と「Erik's Song」くらい。

Julia: あの2週間の自分らのマインドって「何かが生まれるよう祈ろう!」って感じだった。あの頃はお金もなかったし、皆んなまだ副業もやってた。ホテルの部屋や楽屋で曲を作るとか、ヴァンの中でアイディアが浮かんだ…みたいなバンドの話をよく聞くけど、自分らはそんな感じでもない。そういうのに何度かトライしてみたこともあるけどダメだったし…土壇場のプレッシャーが必要!





Tramhausはいつもツアーをされてるので「ロックンロールの最も多忙なバンド」の称号を差し上げられると思います。心と体をパーフェクトな状態に保つヒントや秘訣は何かありますか?

Jim: バンドとしてDIYの精神を忘れないようにしている。運転も自分たちでするし、僕らに同行するのはバンド専属のサウンドエンジニア1人だけ(※上の写真の撮影者でもある「6人目のTramhaus」ことElmo Taihituのこと)。Tramhausにはツアーマネージャーもいないけど、全部自分たちでやれるって意味でその方が都合がいいんだ。そんな訳で、セルフケアをして頭をスッキリさせたり、1人で散歩に出かけたりする時間を持つのは特に重要。ツアースケジュールがびっしりな時はそういう休憩時間が欠かせない。

Julia: 今回のツアーではたくさん本を読んでる。自分らは本を交換するのが好きなんだけど、個人的にはそれがとても楽しい。


本屋で働くオタクとして質問せずにいられないのですが、最近のおすすめ本は何ですか?

Jim: 去年のツアー中、村上春樹の「コインロッカー・ベイビーズ」を読んで大好きになった。PUNKで奇抜でクール!あれ以来皆んなに薦めてるよ。

Julia: 今たくさん読んでるから色々あるけど…ハニヤ・ヤナギハラ(※アメリカの小説家)の「To Paradise (2022)」かな。その前の「A Little Life (2015)」もアルバムのレコーディング中に読んだんだけど、赤ん坊みたいに泣かされた(※本作は、幼い頃から性虐待を受け続け心と身体に深い傷を負った弁護士の青年を親友が愛で救おうとする重い内容。日本語の訳書は未刊)。「To Paradise」も同じくらい素晴らしいけど。今回のツアーで読書は絶対外せない。皆んなでFortnite(※無料のバトルロイヤルゲーム)をやりたくなることもあるけどね。そういえばNintendo Switchを持ってきたけどまだ触ってもいない。

Jim: 手元に本があってこれから何時間もドライブできると思うと、どんなに幸せな気持ちになることか…。幸い僕らは乗り物酔いとは無縁だし!


インタビューでは必ずTramhausの素晴らしいライブパフォーマンスが話題に上りますが、スタジオワークの方をもっと熱心に掘り下げてほしいと不満に思うことはありますか?

Jim: いや、インタビューではアルバムに関する質問もたくさんされるから。同じ答えを繰り返さないようオリジナリティーのある答えをするのが難しいこともあるけど。

Julia: ジムと私はスタジオでの作業があまり好きじゃないから…アルバムのレコーディング方法に関する具体的な話は、きっと他のメンバーなら気の利いた答えをするんだろうけど、自分らはダメ!すべての音符にこだわるみたいなのって自分らの域を超えてる。スタジオワークってホント苦痛。


バンド活動に集中する為、メンバー全員で仕事を辞める決断をされたようですが、それはTramhaus史上最も難しい決断でしたか?

Jim: 完全に仕事を辞めたわけじゃないんだけど、かなり調整とかして変化があったよね。僕はまだフルタイムの仕事をしてるけど、とても融通が利くから助かってる。今Nadya (gt.)とLukas (vo.)が僕のために仕事してくれてるから、皆んなにとってワークするシステムが実現できてる。

Julia: 自分はバーで働いてるから、ツアーがない時は出来るだけ多くシフトに入るようにしてる。その前はあまり融通の利かない所で6年間働いてたんだけど(※フランスでのブレイクのきっかけとなったセッション動画「Roodkapje Session (2021)」を撮影したアートスペース兼ライブハウスの中にあるハンバーガーショップ。マネージャーだったJuliaは急な呼出し等あって大変だったらしい)、ツアーバンドの生活とは両立出来なかった。そこを辞めるのはとんでもなくリスキーだったんだけど!でも自分たちは何も後悔してない。どんな(ライブの)日程にも「Yes」って言えるから。





Tramhausは完全にヨーロッパのバンドだと思いますが、欧州ツアーで体験した最悪の体験談って何かありますか?

Jim: あんまりそういう話ってないんだよなぁ。オランダ、ベルギー、フランスで出会う人にはとてもよくしてもらってるし…今はもっと大きめの会場でライブするようになったけど、それでも何もかもがプロフェッショナル。例えば、今回のツアーで初めてセルビアに行った時、ベオグラードには知ってる人が2人しかいなかったけど、とてもクールだった!もっと正確に質問に答えるとすれば1つネタがあって…僕らはどこか人里離れた場所で眠っていたんだけど、僕が寝転んでた薄いマットレスは黒胡椒の臭いがしてた。必ずしも不快ってわけじゃないんだけど、ちょっと変だと思った。その翌日臭いの原因を確かめたくてググったら、最初にヒットしたのが「ネズミの問題をどう解決するか」。足の指が失くなったりTシャツに穴があいたりする前に急いで逃げ出したよ。

Julia: 最初のツアーで車が故障しちゃってメンバー皆んなで一緒に泣いたのはあれが初めてだった。代車が来なくて4日間もポーランドから出られなくて、全部キャンセルすべきか悩んで、希望を持ち続けるのが大変だった。結局どうにかなったんだけど、地獄の底に落ちたって感じだった!ワルシャワがどんなにクールな街か分かったのは良かったけど…(※英語の通じないポーランドで四苦八苦するバンドの様子を綴った2022年8月のMicha(gt.)によるダイアリー記事はこちら)。


どこかで読んだのですが、時間とお金があればオーケストラや大合唱団とコラボしてみたいそうですね。PUNKシーンにクラシック音楽を広めようとされている?

Jim: 誰が言ったのか知らないけどNadyaかLukasが言いそうだね!今、初めて聞いたよ。例えば、ビートルズの曲みたいにオーケストラの壮大な感じをやれたらきっと素晴らしいだろうね。

Julia: オーケストラのサウンドなら大好き。特にバイオリンとかの弦楽器。映画音楽にもとても惹かれるし、Tramhausがサウンドトラックを作れたらいいなと思う。とてもドラマチックなものになるだろうし、大胆な試みになるはず!