15 June 2017

Simone Marie Butlerインタビュー|Primal Scream(プライマル・スクリーム)のベーシスト、Soho Radio DJ


【元ネタ英語記事】Interview: Simone Marie Butler - "It's up to me to be inspired" (Gigsluts 2017年1月29日)

以下、当サイトによる翻訳


ミュージシャン、ヴォーカリスト、DJとして高い評価を受けるシモーヌ・マリー・バトラーは、そのユニークさから音楽業界注目の存在だ。大規模なコンサート会場から小さなDJパーティーまで分け隔てなくこなす彼女のこだわりのなさは、気持ちいいほどに見事である。

ここ5年程Primal Screamでベースを担当している彼女は言う。「自分の好きなことで依頼が来るのって未だにワクワクしますね。去年はEd Harcourtや、Faris BadwanとRachel Zeffiraが組んでるCat's Eyesと共演したんですが、コラボレーションするのはいつでもスリルを感じますね。でも一番最初にPrimal Screamとライブをすることになった時、私に電話してきて『ベーシストを探してる』って言ったのはBobby [Gillespie] だったんです」。― 彼女はそれにイエスと答えた。シモーヌにとって、音楽はすべてなのである。

「DJとしてSoho Radioの番組もやってますが、これはSoho Radio開局から3年間ずっとですね。自分の番組ではメインストリームに逆行するよう心掛けて好きな音楽をかけるようにしています。昔のMC5のブートレグをかける時もあれば、7分もあるリミックス、レーベル契約のないアンダーグラウンドな曲、リリースされたばかりの曲やお気に入りの古い曲をかけることもあります。番組の企画は全部自分でやっていて、インタビューにゲストを呼んだりしています。Soho Radioってそんな風に自由にやらせてくれるから、番組を自分流にアレンジできるんです。ラジオ番組のDJを担当する良い点のひとつは、ミュージシャンとしての自分を投影できることですね。メインストリームのラジオにありがちな編集的なことも一切ありません」。

より興味深いアーティスティックなプロジェクトも、メインストリームから離れた場所で見つかるものだ。うなずきながらシモーヌは語る。「これまでとは異なる分野に自分を置いて、違ったやり方で取り組むようにしています。まさにBowieが言ってたことなんですが、自分より優秀な人達と仕事してみろ、そこでちょっと居心地が悪いと感じたら、正しい場所に身を置いているっていうことだって…。良い仕事をする人間として認知されたいですが、自分のことは自分で評価するしかないですよね。受けた仕事は巧くやりたいし、向上心と向学心は忘れたくないですね。音楽には常に発見すべきものがありますから」。

世界で1番ビッグなバンドのひとつPrimal Screamでのシモーヌの存在は、Sly and the Family Stone、New Rotary Connection等、ファンキーで多様なジェンダーを許容する音楽ムーブメントを彷彿させる。どちらもバンドのルックスやサウンドはこうあるべきだとの固定概念に束縛されることのなかったバンドであり、その記憶に残るポジティブなサウンドで歴史に名を残している。「”女性ベーシストであることってどんな感じ?”ってよく聞かれるんですが、そんな時は”じゃあ男性の歯科医や男性のファッションデザイナーであることってどんな感じ?”って聞き返すようにしています」。ブリクストンの昼下がり、指の感覚がなくなるような寒さの中、コーヒーを片手に彼女は笑った。「正直言ってそんなこと考えたことないんです。全く気にしたこともない。でも音楽業界で目立つ存在だってことは自覚してます」。


Primal Scream - It’s Alright, It’s OK (Official Video)


だが彼女は性別が理由で差別された経験はないのだろうか?「自分がやっていることで正面から女性差別を経験したことはないです。仕事ばかりしているので今後も経験することはないと思います。ミュージシャンやクリエーターにそういう発想をする人はいないですから。だからといって女性差別は存在しないとか、他の業界と較べて音楽業界にもっとひどい点があるって言ってるわけじゃないですよ。音楽業界にあるとすれば、ビジネスや企業側に多いんじゃないでしょうか。ただ自分の周りはそんな感じではないですね。Carol Kayeが言ったように「音符に性別はない」みたいな感じ。もし私がポップミュージック寄りにいたり、ソロアーティストだったりしたら、そういうのをもっと経験したのかもしれませんが、音楽ビジネスの中で女性だからといって不安を感じたことは一度もありません。でもレコードレーベルで働いてた時はもっと性差別があったし、楽器店を運営していた時には、女性を見下してるな…みたいなのはかなり経験しました。でも自分が女性だからこれができないんだと感じたことはないし、若い女子がそう感じる世の中であってはいけない。自分が受け入れてもらえないんじゃないかと不安になったこともありません。そもそも女を利用して自分を売り込もうなんて考えてないですから。そんな風に考えてるなら今自分がやっているようなことはやってなかったでしょうね」。

「経験上、行動を起こすのを躊躇してる時の方が多くのことを学べるんですよ。イエスって言うのを怖がる人は多いけど、自分の場合、ノーと言う方が怖いですね」。…つまりクリエィティブな作業に対して、己を制限しないということ?「そうですね、音楽を作る人になりたいと願いながら私は育ったんです。父はミュージシャンでギタリストだったので、家の中にはいつも音楽がありました。常に楽器に囲まれていましたし、子供の頃はミュージシャンが出たり入ったりする環境でした。それが自分にとって普通だったんです。音楽は生計を立てるためのものだったんですね。父のレコードを聴いて育ったんですが、それはThe Beatles、Eddie Cochran、Little RichardやRoy Orbison等、もうロックンロール三昧!音楽以外の仕事をするなんて想像もしてませんでしたし、定職に就くといつもアンハッピーな気持ちになっていました。自分が大好きなものと繋がってないと感じていたんですね。音楽とバンドはいつも本業の合間にやってたんですが、そうですね、多くの人が無料のストリーミングで音楽を消費する時代、音楽で食べていくのは当然難しい場合もあるでしょう。でも音楽で食べていくのに有名にならなきゃダメだって思い込んでる人が多いけど、それは違うと思います。働きながらミュージシャンをやって本当に素晴らしい人生を送ることだって可能だと思います。世間の注目を浴びているのに全然お金がないなんてこともあり得ますから、どちらもホントですね」。つまり自分自身に正直になる、さらに言えば、音楽の女神に忠誠を誓って生きよう…という話である。

ベーシストに関してシモーヌは、モータウンのレジェンドJames Jamersonや、Charlie Mignus、Paul Simonon、Joh Wobble、Steven Severin、Simon Gallup、Gail Ann Dorseyを尊敬しているという。それ以外では、Warren Ellis、Anton Newcombe、SavagesのJehnny Bethのようなアーティストの名前も挙げている。「ミュージシャンになることって、自分の好みじゃない音楽とか、昔好きじゃなかったものにもオープンになって、あまり批判的にならないってことでもあるんです。その結果、いつも物事の良い面を見つけようとする人間になれる。ある種のジャンルやバンドがあまり好きになれないっていうのはあるかもしれないけど、例えばそのアルバムが如何に巧く作られていて良い作品なのか評価できるようになります。このことは、どんなジャンルでも写真撮影とか何かにハマっていても、誰にでも当てはまることなんです。作品についてオープンマインドになるのか、逃げ腰になるのかの二択なんです」。

 シモーヌはこれからのことについてプランニングしているのだろうか?「あまり先のことは考えないんですよ。そうした方がいいのは分かってるけど、自分は5ヶ年計画するタイプの人間じゃないです」彼女は笑う。「あるいはもし5年も先のことを計画するとすれば、それは人生の区切りってことになるでしょうね。いろんな理由で人生の多くの節目で脱線しちゃってますから…まぁそれはまた別のインタビューで…。自分のやりたいことをやり続けたいです。間違いなく音楽は自分の人生を救ってくれました。ベースを弾くのを止めることはないでしょうね。他にはリミックスのやり方を学ぶとか、スタジオでの制作スキルをもっと身に付けたいですね。いつかは自分の音楽プロジェクトもやってみたい。写真にも携わっていきたいですし、長年やりたいと思い続けてるミュージックビデオの制作も学びたいです。Douglas Hartの作品にインスパイアされてますから。彼には本当に才能がありますね。あと音楽のヴィジュアル表現にも興味があります。だけど今の自分の立ち位置にも満足しているし、自分の能力を多方面に広げるのもいいと思ってますが、そうするかどうかは自分次第。決めるのは自分の意志でなきゃ。何かにインスパイアされるかどうかは自分次第だということです」。

「でも音楽をやっていく上での大きな落とし穴は、こだわりを失くしてしまうことと、うぬぼれてしまうこと。有名人になるのを目指すゲームなんて、リアルじゃないし参加すべきじゃない。今ってYouTubeやInstagramでフォロワーが何人いるかを重視し過ぎるけど、それってただありきたりなことを喜んでいるだけ。ソーシャルメディアはいろんな意味で人の心を蝕んでしまう。人の最悪な部分を引き出して、リアルタイムな人間関係や周りの世界から人を隔離してしまう。オンラインでの居場所が重要になり過ぎて、事実を大げさに表現するのに悪用されることだってあるから健全とは言えないですよね。何もかもキャッチアップしてリアルな世界より大切だと思ってるとしたら間違いでしょう。音楽をやることと有名になることは全く別物なんです。自分の場合、客観的で冷静な人としか付き合わないようにしているし、人生的に遅咲きでクリエィティブな表現手段を見つけたので、これまでに自分に与えられた機会のことを、他の人より有難く感じられるんですよ」。

シモーヌはまた、慈善活動も行っている。ステージ4の大腸ガンの治療を続ける友人、DelaysのGreg Gillbert(訳者注:残念ながら2021年逝去)のため、2月17日にCavalry(訳者注:資金集めの為に設立された団体名)によるチャリティーライブを開催するのである。シモーヌはMystery JetsやBand Of Skullsと共に参加予定だ。「自分達はGregの命を救いたいだけなんです。NHSでは必要な治療を受けられないから」。そう答える彼女の目は一転して哀しみで曇っていた。「彼は信じられないくらい綺麗なソウルの持ち主で、これまで出会った中で1番優秀な人物のひとり。ヴァレンタインにDelaysのシングル『Valentine』を1位にしようというキャンペーンもやっています。皆んなの魂が集まれば、誰かの人生を変える力にだってなれるんです。自分の人生で出会えた素晴らしい人達がまだこの世にいるうちに、心から感謝の意を表すべきなのにそうしないっていうのもアリかもしれませんが…我々には細かいことを言っている暇はないんです」。